
就活の軸がブレる本当の理由──適職迷子たちの終わらない自己分析
就活の軸を明確にしなさい。キャリアセンターの面談でも転職エージェントとの初顔合わせでも、担当者は判で押したように親の仇のような顔をして最初からそう言ってくる。 でも、そのブレない自分だけの軸とやらが何なのか、何十時間もの自己分析を重ねても自分自身で全く分からないからこそ、こうして深夜までネットの海をさまよい、胸をかきむしるように苦しんでいるのではないか。
焦って本屋で自己啓発本や自己分析の分厚いワークシートを何冊も買い込み、自分の幼少期から大学時代までの歴史を事細かに洗い出した。 最初の頃は、人の役に立つ仕事が私の立派な軸だと思い込んでいた。でも、総合商社の華やかなメガイベントに行って第一線で働く社員のパワフルな話を聞くと、グローバルにスケールして最前線で活躍することこそが社会人の大正解なのだと急に思えてきた。その帰り道に勢いのあるメガベンチャーの人事と面接すると、結局は個人のスキル、手に職をつけて爆速で成長することこそが厳しい時代を生き抜く絶対条件だと脳が完全に書き換えられている。
最新の厚労省や各企業が実施している定点調査のデータを紐解くと、驚くべきリアルが浮かび上がる。社会人生活を開始してから、実に66.1パーセントもの人が就職先の選択について強烈に後悔しているというのだ。その理由も、単なる給料の安さだけでなく、業務内容が自分のイメージと決定的に違った、社風がどうしても合わないといった、根底にあるミスマッチが上位を占めている。 つまり、世の中で絶対にブレない軸を持っていると豪語していたはずの彼らの大半も、結局のところ入社後にその軸の脆さに気づいて絶望しているのが現実なのだ。
面接を受けるたびに、企業側が暗に求めている正解の人物像の空気を一瞬で察知し、そこに自分の志望動機と過去のエピソードを綺麗にチューニングしてしまう。 相手が大きくうなずきそうな熱い言葉を語りかけているときの自分は決して嘘をついているわけではなく、その瞬間は本気で骨の髄からそう思っているのに。家に帰ってふと洗面所を見つめて我に返ると、あれ、私ってIT系志望だったっけ、と激しい認知の違和感に襲われる。 結果として、立派な内定をいくつか持っているのに、自分が心の底から本当に行きたいと思える会社がただの一つも見当たらないという地獄に突入する。
入社後もこの悲劇は続く。入った会社でちょっと理不尽なことがあると、なんで私はあんな適当な軸でこの会社を選んでしまったんだろうと後悔の念に囚われ、わずか半年で転職サイトのアプリをこっそりインストールする。また、もっと自分に本当に合う確固たる軸が見つかる最高の仕事を探して、果てしない旅に出てしまうのだ。
ここで安心してほしい。これはあなたの社会人としての能力不足でも、自己分析にかける熱量が足りないからでも決してない。人事の世界で数多くの学生や求職者を見てきた観点からはっきりと断言できる。 ユング由来の特定の認知エンジンを持っている人間にとって、絶対的なブレないたった一つの軸を決めるという行為自体が、脳のハードウェアの基本仕様に完全に反した狂気の沙汰なのである。
軸がブレ続ける理由
あなたが就活や転職の場で永遠に答えの出ない適職迷子に陥りやすいのには、極めて明確で残酷な構造的理由が存在する。
Feによる他者への同期
外向的感情という機能を車のメインの運転席に座らせているENFjやESFjなどのタイプにとって、世界で最も関心のある重大なデータは、目の前の相手やその空間・社会が今、自分に何を求めているかという外部からの強い要請だ。
彼らは無意識のうちにカメレオンのように、環境の波動に合わせて自分の最適な色を瞬時に変えることができる。老舗メーカーの生真面目な面接官の前では実直で誠実な学生らしく完璧に振る舞い、イケイケのITベンチャーの社長の前ではリスクを恐れず挑戦する若者らしく見事に振る舞える。 これは計算づくで相手を騙して嘘をついているのではない。空中に漂う相手の期待のエネルギーをアンテナで完全に受信して、無意識に自分自身の感情をそれに丸ごと同期させてしまっているのだ。
だが、この天才的な同期能力が高すぎるせいで、全ての説明会や面接が終わって自室のベッドに一人で倒れ込んだとき、同調する相手が一切いない状態の空っぽの本当の私ってどれだっけ、とアイデンティティが極度の迷子になる。 彼らの軸がブレる最大の原因は、そもそも最初から自分軸など作っておらず、社会や目の前の面接官が求める正解という他人軸を自分の外部から丸ごとダウンロードしてきて、使い捨てていることにあるのだ。
Neの可能性の拡散
もう一つ、就活生を適職迷子の深い森に引きずり込む元凶となるのが、外向的直観の暴走だ。 ENFpやENTpなど、この未知への探索機能が強すぎる人間は、ひとつの限定された選択肢を見た瞬間に、そこから放射状に派生する10個の全く別の可能性と未来のパラレルワールドを同時に全て見てしまう、ある意味で呪われた病気だ。
A社に行けば安定した生活は確実に手に入る。でもB社に行けば若いうちに裁量を持ってもっと圧倒的に成長できるかもしれない。いや待てよ、そのままどこにも就職せずに思い切ってフリーランスで起業する人生のルートも断然アリなのではないか。 彼らにとって、ひとつの道を確定させるという選択行為は、他のすべての輝かしい可能性を今ここで自らゴミ箱に捨てることと完全に同義なのだ。
だから、いざ内定をもらって承諾書にハンコを押す直前まで、本当に私の人生ここで決定してしまっていいのか、私がまだ知らないもっと思いもよらない面白い天職が世界のどこかに隠されているのではないかと永遠にブルーになって迷い続ける。 常にまだ見ぬ未知のデータを求めているため、どれだけ自己分析をして完璧な軸を作っても、新しい環境の情報をひとつ取り込んだ瞬間に、その軸自体を破壊して可能性の枠を再び広げたくなる。これが、あなたが一つの軸に縛られることを生理的に強烈に拒絶する理由だ。
絶対的な軸という幻想
結論として、このピーキーなOSを持って生を受けた私たちが、社会が押し付けてくる絶対にブレない鋼の自分軸をたった一つ作ろうと努力すること自体が、ゲームの攻略法を根本から間違っている。生存戦略の根本的なルールを変えなければならない。
誰とするかを絶対の軸に
他者への同期が強い人がやりたい業務内容のスキルを軸にすると絶対に失敗する。彼らの働くモチベーションの根源的な源泉は、パソコンの画面の中のエクセルの数字ではなく、誰に喜ばれるか、どんな人たちと一緒に笑って泣いて働くかという人間関係のバイブスに100パーセント強く依存しているからだ。
だから、業務内容の軸はブレて構わない。なんとなく一緒に働く人たちの空気が肌に馴染むからという極めて感覚的な理由を、最上位の絶対的な軸に設定してしまえばいいのだ。 面接官の言葉の端々からにじみ出る人柄、オフィスを見学したときの何気ない挨拶の空気感、面談で話した先輩社員の目の輝き。そういった環境の周波数が自分にマッチするかどうかだけを鋭いアンテナで最優先で判定する。自分がやるべき業務内容は、入社してから大好きな周囲の期待に応える形で、いくらでも後から自然に好きになれるだけの異常な適応力が彼らには最初から備わっているのだから。
複数の軸を並行で走らせる
可能性を捨てられない人間は、無理に軸を一つに絞り込むような苦行はしなくていい。ITで地方創生をするという真面目な顔をした軸と、とにかく残業なしで趣味の時間を絶対確保するという本音の軸が並行、あるいは矛盾して存在していても全く構わない。
彼らの最高の武器は、一見全く関係のない複数の異なる要素を自分の中で結び付けて、誰も思いつかなかった新しい道を作る統合力だ。迷子になっていると自分を責めるのではなく、大量のデータを集めて人生の可能性の解像度を猛スピードで上げている最中だと捉えることだ。 就活や転職の面接においては、君は軸がブレているねと無能な人事から指摘されがちだが、そんな時は、御社なら一見矛盾する私のこの複数の異なる強みをすべて統合して活かせる素晴らしい環境だからですと、逆に相手の器の大きさに転換するプレゼンに切り替えればいい。
絶対にやりたくない地雷
自己分析をやればやるほど自分軸が見つからない人に一番特効薬として効果を発揮するのが、個人の絶対的な価値観をネガティブな方向から容赦なくえぐり出すことだ。
やりたいキラキラした夢はよく分からなくても、これだけは死んでも許せない、こういう環境で働くくらいならニートのほうがマシだというドロドロとした地雷は、誰の心の中にも必ず強烈に存在するはずだ。 満員の通勤電車には絶対に乗りたくない。怒鳴り声が飛び交う殺伐とした体育会系の環境では絶対に1秒も働きたくない。毎日エクセルに数字を打ち込むだけのルーティンワークだけは発狂するから絶対に嫌だ。
どんな些細で性格が悪い欲望でも構わない。思いつく限りのNGリストを紙に書き殴ってみる。 その黒いNGリストをひっくり返して裏側から眺めたものこそが、実はあなたの最も強固で、誰に何を言われても絶対にブレない裏返しの本物の軸なのだ。
ポジティブで意識の高い自己分析に疲れ果てたら、一度ネガティブの沼底まで沈み込み、底を力強く蹴って人生のベースラインを引き直すことを強くおすすめする。ブレない軸は、眩しい光の中ではなく、自分の最も深い影の中にこそ隠されているのだから。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。深刻な就業不安などがある場合は、専門窓口を適切に活用してください。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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