
医師の伝え方は診療科で変わる──認知機能別コミュニケーション翻訳術
医師の説明が冷たい、話が長い。これは性格の問題ではなく、認知機能の出力方式の違いだ。
説明が冷たい問題の正体
外科医に手術の説明を受けたとき、まるで機械の修理手順を聞いているようだったという患者さんの声は珍しくない。逆に、小児科医に子どものことで相談したら、先生が一緒に泣いてくれたという話もある。
同じ医師免許を持った人間なのに、コミュニケーションスタイルがここまで違うのはなぜか。それを診療科の文化の違いだけで片付けるのは浅い。根底にあるのは認知機能の処理方式の違いで、診療科の選択自体が認知機能の適性に影響を受けている。
ある病院の研修医教育担当者に聞いた話で興味深かったのが、研修医が診療科を選ぶとき、技術的な興味だけでなく、患者とのコミュニケーションスタイルとの相性が無意識に作用しているという指摘だ。Te型の研修医は手技が明確で効率的な外科系を好み、Fe型は患者との関係性が長く続く小児科や家庭医療科を選ぶ傾向があるらしい。
弊社の診断でも、医療従事者の受験データを分析すると診療科別に認知機能の分布が偏る傾向が確認されている。もちろん例外はたくさんあるが、傾向としては明確だ。
診療科別の認知適性
Te型外科医の説明
Te(外向的思考)型が多い傾向にある外科系。手術のプロセスを効率的に遂行し、限られた時間で最善の判断を下す場面でTeは最大の力を発揮する。
Te型の説明は、事実→手順→リスク→結論の流れで組み立てられる。論理的で正確で抜け漏れがない。医学的には完璧だ。でも患者が受け取る印象は冷たいになることがしばしばある。
なぜか。Te型は感情的な言葉を出力に含めないからだ。大丈夫ですよ、心配しないでくださいね、一緒に頑張りましょう──こうした感情的なクッション言葉は、Te型にとっては情報量ゼロの冗長表現にequalする。だから省略する。患者が求めているのは正確な情報だと本気で思っている。
でも実際に患者が求めているのは、この先生に任せて大丈夫だという感覚だ。特にFe型やFi型の患者にとっては、感情的な安心感がなければ、いくら正確な説明を受けても不安は消えない。
Te型外科医への処方箋は、説明の最初と最後に1文だけ感情的な言葉を足すこと。まず安心してほしいのですが、と入れて、最後に一緒に乗り越えましょうと閉じる。中身のTeらしい論理構造は変えなくていい。入口と出口に感情のラッパーを巻くだけで、患者の信頼感は大きく変わる。
Fe型の共感疲労
Fe(外向的感情)型が多い傾向にある小児科、緩和ケア、家庭医療科。患者の感情に寄り添い、家族全体のケアを視野に入れた医療を提供できるのはFe型の強みだ。
問題は、その共感力が自分を削ることだ。
小児の重篤なケースに立ち会ったとき、Fe型の医師は患者の家族の悲しみをダイレクトに受信する。仕事として処理しなければならないのに、感情が先に反応してしまう。ある緩和ケア医の手記で読んだのだが、帰宅後に子どもの顔を見て泣いてしまうことがあると書かれていた。Fe型の共感疲労はこうして蓄積する。
看護師の共感疲労と認知機能で看護師のケースを書いたが、医師の場合はさらに複雑だ。決断権を持つ立場にいるから、共感しながら同時に冷静な判断も求められる。共感と判断を同時に走らせることは、Fe型の認知資源を二重に消費する。
Fe型の医師には、勤務後に感情の棚卸しをする習慣が必要だ。今日受信した感情のうち、自分のものとそうでないものを分ける。これは訓練すればできるようになるが、多くの医師はそういう教育を受けていない。
Ti型内科医の論理回路
Ti(内向的思考)型がいるのが内科系、特に診断学に強い医師。患者の症状から原因を論理的に絞り込むプロセスはTi型の天職と言っていい。
Ti型の説明の問題は、論理の粒度が細かすぎることだ。検査結果のAという数値がBという基準値を超えていて、これはCという可能性を示唆しますが、DとEの可能性も排除できないので追加検査を──。医学的には誠実な説明なのだが、患者が知りたいのは結局、私は大丈夫なのかどうかだけだったりする。
Ti型の医師は可能性の分岐を提示するのは得意だが、一つに絞ることに抵抗を感じる。正確さを損なうからだ。でも患者にとっては分岐が多いほど不安が増える。
会議で黙る人の認知パターンで書いたTi型の処理特性は、医師の場合も同じだ。まとめて一言でと言われるのが一番つらい。
Ti型の医師への処方箋は、結論→根拠→不確実性の順で話すこと。患者にまず大きな絵(大丈夫か、大丈夫じゃないか)を見せてから、細部を補足する。
弊社の診断を医師向け研修に導入した病院の事例では、医師が自分の認知タイプを知った上で患者対応スタイルを微調整するだけで、患者満足度アンケートのスコアが1.5ポイント上昇した(5点満点中)。診療の質が変わったわけではない。伝え方の認知OSを自覚したことで、患者に合わせた出力調整ができるようになっただけだ。
Se型救急医の即断即決
Se(外向的感覚)型は救急医療で最も輝くタイプだ。
Se型は今この瞬間に起きていることに対する反応速度が異常に速い。バイタルの変化、患者の顔色、モニターの数値──複数のリアルタイム情報を同時に処理して、次のアクションを体が先に決める。
救急外来で複数の患者が同時に搬送されてきたとき、Se型の医師はトリアージの判断が速い。Ni型が全体の優先順位を考えている間に、Se型はもう指示を出している。これは能力の差ではなく、認知のタイムスケールの違いだ。
弱みは長期の治療計画の策定。入院患者の退院計画を3ヶ月スパンで考える作業はSe型にとって苦行だ。ここはNi型やTi型に任せて、Se型は急変対応やinterventional procedureに集中する──そういう診療科内の認知機能分業が理想的だ。
患者タイプ別の伝え方
Se型患者には端的に
Se型の患者は、今何が起きていて次に何をすればいいかに集中している。
診断の背景や机序の話が長くなると興味を失う。検査結果です、Aが高いです、薬を飲みます、2週間後にまた来てくださいのレベルの端的さが、Se型の患者には最も伝わる。
書面で補足資料を渡しておくと、Se型は行動に必要な部分だけを拾い読みしてくれる。
Fe型患者に共感先出し
Fe型の患者は、診断内容の前に先生は自分の気持ちをわかってくれているという実感を必要としている。
検査結果を伝える前に、不安でしたよね、の一言があるかないかで、その後の情報の受け入れ方が変わる。Fe型は安心してから情報を処理するので、感情のケアが先、情報提供が後。
Te型の医師がFe型の患者に当たったときに起きるミスコミュニケーションの大半は、この順番が逆になっていることが原因だ。
Ni型患者に全体像提示
Ni型の患者は、治療の全体像を先に知りたい。今日だけでなく、3ヶ月後、1年後がどうなるのかの見通しを求めている。
部分的な情報を毎回出されるのが一番ストレスが高い。最初に治療のロードマップを提示して、今日はその中のここですと伝えれば、Ni型は安心して個別の処置を受け入れられる。
Ti型患者に構造的説明
Ti型の患者は、なぜその治療法を選ぶのかの論理構造を知りたい。
Ti型はAですからBしましょうと端的に言われると、なぜAならBなのかと考え始めて質問が止まらなくなる。最初から論理の全体構造を見せた方が、Ti型は早く納得する。検査値がA→考えられる原因はBとC→Bの可能性が高い理由は→だからD治療を選ぶ──この因果の連鎖を丁寧に説明すれば、Ti型は一度の説明で深く理解してくれる。
Fe型の医師がTi型の患者を担当すると、質問の多さに圧倒されることがある。でもTi型の質問は不信感ではなく知的欲求だ。論理が腑に落ちれば、最も従順な患者になる。
多職種カンファの翻訳術
医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士、ソーシャルワーカー──多職種カンファレンスでは認知機能のバリエーションが一堂に会する。
ここで起きがちなのが、Te型の医師がデータと結論だけ話して全体の方向性を決めてしまい、Fe型の看護師が患者の感情面の情報を出すタイミングを失い、Ti型の薬剤師が薬物相互作用の懸念を最後まで言い出せない──という構造だ。
ケアマネの多職種連携術で書いたOS翻訳は、医師の立場でも同じように使える。相手の認知機能に合わせた情報提示の入り口を変えるだけで、カンファの質が変わる。
医師と患者の認知ミスマッチは、どちらも善意で動いていても起きる。プリセプターと合わない構造で書いた看護師のケースとまったく同じだ。悪意ゼロのすれ違い。認知の処理方式が違うだけなのに、相手が冷たいとか雑とか判断してしまう。
自分の認知傾向を把握することが、医師にとっても患者にとっても、伝わるコミュニケーションへの第一歩になる。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療行為に代えてのアドバイスではありません。体調に不安がある場合は医療機関を受診してください。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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