
飽きやすい脳の正体──可能性中毒を強みに変えるOS再起動の戦略
深夜、ふと見つけた新しい趣味や副業のアイデアに強烈な雷に打たれたような衝撃を受け、あなたはクレジットカードを切って高額な機材や教材を一括で買い揃える。 最初の2週間は毎日が劇的に輝いて見える。寝る間も惜しんでリサーチし、誰よりも早く基礎を吸収し、SNSで天職に出会ったかもしれないと興奮気味にポストする。 周囲の人間も、あなたのその圧倒的な熱量と行動力に驚き、応援してくれるだろう。
だが、3ヶ月後。 あんなに輝いて見えたあの機材は部屋の隅でホコリを被り、未読のメルマガだけが毎日虚しく溜まっていく。 対象の構造がある程度見えてしまった瞬間に、嘘のようにサーッと血の気が引くように情熱が消え失せてしまったのだ。何かが嫌になったわけではない。ただ、強烈に、致死量レベルで飽きてしまった。
そしてあなたは、部屋の片隅にある三日坊主の残骸の山を見つめながら、強烈な自己嫌悪に陥る。 まただ、また自分は何も続かなかった。 新卒で入った会社も1年で辞め、副業も続かず、趣味も中途半端。継続力という人間にとって最も基本的なパラメーターが、自分には決定的に欠如しているんだ、と。
社会は「継続は力なり」と呪文のように唱え、一つのことを10年続ける人間を職人として無条件に礼賛する。 だからこそ、あちこちを飛び回るジョブホッパーや多趣味な人間は、「こらえ性がない」「逃げているだけ」「飽き性=悪」などと軽薄な存在として扱われがちだ。 あなた自身も、「このまま履歴書が汚れていったら、私は社会の底辺に落ちてしまうんじゃないか……」という強烈な恐怖に怯えながら、今日も新しいタブを開いては閉じているのではないだろうか。
しかし、数多くのキャリア相談に乗ってきた人事の立場から、あなたのその自己否定のサイクルをここで断ち切らせてほしい。 これだけは言わせてくれ、飽き性は「悪」なんかじゃ断じてない。 あなたのその飽きっぽさは、決して怠惰や根性なしが原因ではない。 未知のパターンを無限に吸収しようとする可能性探索OSが搭載されたあなたの脳が、設計図通りに完全に正常・最高出力で稼働しているという、ただのシステムの仕様なのだ。
自分が欠陥品だと思い込んでいるうちは、一生この自己嫌悪のループから抜け出せない。 まずは、あなたの脳が一体どんな情報を一番のごちそうにしているのか、ベースとなる性格診断を通して本当の仕様を確認してみてほしい。
なぜ三日坊主なのか
あなたが物事を続けられないのは、あなた自身がダメな人間だからではない。 問題は、あなたの性格OSが維持・運用ではなく開拓・学習に特化したピーキーな初期設定(特化型ハードウェア)になっていることにある。
熱狂と冷却の異常な速度
もしあなたの性格タイプが、外向的直観(Ne)や外向的感覚(Se)と呼ばれる情報収集機能を強く持っている場合(ENFp、ENTp、ESTp、ESFpなど)、あなたの脳にとって最も価値があるのは結果を出すことではない。まだ知らないシステムや構造が、どうやって動いているのかを解明することだ。
新しいゲームのパッケージを開け、ルールを理解し、最初のボスを倒すまでの成長の傾きが最も急激な時期。あなたの脳内にはドーパミンが滝のように分泌され、まさに熱狂という言葉がふさわしいゾーン状態に入る。 しかし、大体のやり方を理解し、あとは同じ作業を何千回と繰り返してレベルを上げるだけの作業(ルーチン)のフェーズに入った瞬間。 あなたの可能性探索OSは、もうここから新しいパターン(未知のデータ)は得られない、ここに留まるのは電気代(脳のカロリー)の無駄であると氷のように冷酷な計算を弾き出し、強制的に興味への電源をバツンと切ってしまうのだ。
矢尽きの後の失速
世間一般の維持管理を重んじるOS(Siなど)を持つ人々は、同じことを繰り返し、徐々に熟練していくことに安心感と達成感を覚える。彼らは水やりを毎日欠かさない農耕民族だ。 だが、あなたは新しい土地を見つけ、地図を描き、次の未開の地へ向かわなければ死んでしまう狩猟民族である。いくら豊かな土地(安定した職場や趣味)であっても、そこでずっと同じ芋を育て続けろと言われると、数ヶ月で魂が枯渇してしまうのだ。
あなたが飽きたと感じるあの瞬間。それは怠慢ではなく、あなたの脳がこの事象の構造は完全に理解(コンパイル)できた、さあとっとと次の未解明のデータセットを探しに行こうと完了の合図を出しているだけの話なのである。
探索OSが引き起こす罠
とはいえ、現代社会における労働環境の大半は、農耕民族向けに最適化されている。 だからこそ、私たちの可能性探索OSは、現在の資本主義のレール上で深刻なバグを引き起こす。
何者かにならなければならないという呪縛
最も恐ろしいのは、あなた自身の中にある一つのことを極めてプロフェッショナル(何者か)にならなければならないという強迫観念だ。 色々なことに手を出してはすぐに辞める自分を、器用貧乏、中途半端などと自嘲してしまう。しかし、それは世間のモノサシで自分を測っているから苦しいのだ。
一つの山を富士山の頂上まで登り詰めるスペシャリストもいれば、10個の異なる低山を少しずつ登り、それぞれの山の地質や生態系の共通点を発見するジェネラリストもいる。 あなたのOSは後者である。Aの分野で得た知見を、全く無関係に見えるZの分野に持ち込み、誰も思いつかなかったような規格外のアイデアをショートカットで生み出す。それこそが、探索型OSの真骨頂なのだ。
人事の現場で見てきた圧倒的に優秀なイノベーターたちは、往々にして履歴書が汚かったり、趣味がコロコロと変わったりする人間たちだった。(一見すると欠点に見える好奇心の暴走が、キャリア戦略としてどう活きるのかはこちらの記事に詳しい)。 彼らは飽きたから辞めるのではない。全容を把握して十分なデータを抜き取ったから、別のシステムに移行しただけなのだ。
飽き性を才能に変える道
では、このピーキーな特性を持ったまま、社会で経済的に死なずに生き残るためにはどうすればいいのか。
弊社の診断データでも、転職回数3回以上のユーザーの約6割がNeまたはSe主導の探索型OSを持っており、彼らの大半が同じ業務の繰り返しが最も苦痛だと答えている。これは怪ぐれでも気まぐれでもなく、OSの仕様書に完全に合致する行動パターンだ。1分タイプチェックで自分の傾向を確かめてみるとよい。
プロジェクト型になる
同じ業務を永遠に繰り返すようなポジション(事務、定型営業、保守運用など)に就いてはいけない。そこはあなたの才能の墓場だ。 あなたが目指すべきは、数ヶ月から長くても1年でゴールが決まっており、終われば次の全く違うミッションが始まるような環境だ。
例えば、新規事業の立ち上げメンバー、プロジェクト型のコンサルティング、イベント企画、短期間のキャンペーン施策など。常に新しい何かをゼロベースから急速に学習し、システムとして立ち上げ、軌道に乗った段階で運用が得意な人(S型のOSを持つ人)に丸投げして立ち去る。 これが、可能性探索OSを持つ人間にとっての最強のキャリアハッキングである。
ここで注意してほしいのは、あなたが立ち去る時に「最後までやり遂げろ」と激怒してくる、運用維持を至上の目的とするタイプの人間(例えば過剰なSi型など)とはどうしても相性が悪くなるという点だ。あなたが無駄な精神的摩擦を避けるためにも、自分のタイプと致命的に相性が悪いパターンの人物相関図を把握しておいてほしい。「あぁ、この人とはOSの目的が違うのだ」とあっさり諦めることが、無駄な自己嫌悪を防ぐ最強の盾になる。
開き直りという戦略
私はこれの専門家ですと名乗るのをやめてしまおう。 「私は、プログラミングの基礎が少し分かり、デザインの初歩ができ、心理学を少し囓っており、料理とカメラの知識がある人間です」と、手持ちのカードを全て机の上に並べるのだ。
それぞれは100点満点中の60点かもしれない。専門家から見れば鼻で笑われるレベルかもしれない。 しかし、現実のビジネスの複雑な課題解決においては、それぞれを60点ずつ理解しており、それとそれの概念をシームレスに繋げて翻訳できる人間は、部分最適しか見えない100点の専門家よりも遥かに重宝されるシーンが山のようにある。
あなたの趣味の食い散らかしは、未来の課題解決のための壮大な伏線回収の仕込みなのだ。 決して無駄ではないし、中途半端でもない。あなたはただ、世界を広げるために、無数の点を打ち続けているだけなのだ。
点を繋いだ人間の実話
筆者が人事で面談した中で、最も印象に残っている飽き性の人物がいた。
彼の職歴書は壮絶だった。飲食店のホール、Webデザイナー、コールセンターのSV、アプリのQAテスター。30歳にして4社を渡り歩き、一般的な採用基準では確実に見送り対象となるジョブホッパーだった。ただ、彼には無闇やたらに辞めたわけではないという不思議な説得力があった。 面談で深く話を聞くと、彼はそれぞれの現場で驚くほど独自の洞察を得ていたことがわかった。飲食店では顧客の動線と心理を肌で学び、コールセンターではクレーム対応を通じて顧客の言語化されない不満を聞き取る耳を持った。QAテストでは、ユーザーが無意識にやらかす操作ミスのパターンを直感で察知できるようになり、Webデザインの短期間の学習でそれらをどう画面上に配置すれば解消できるかを知っていた。
この人物を、UIUXのリサーチャーとして採用した。結果は圧巻だった。 飲食で培った動線分析、コールセンターで鍛えた顧客の声なき声の拾い上げ、QAで磨いたエラー発見の嗅覚。それぞれバラバラに見えた点が、UXリサーチという一つの職能の上で完璧に繋がったのだ。彼はシステムの深いエラーを見抜いてはそれを開発陣に翻訳して共有し、1年も経たないうちにチームで最も信頼されるリサーチャーになり、プロダクト改善のヒット率は社内トップとなった。
彼が証明してくれたことがある。 飽き性が打ち続けた無数の点は、必ずどこかで線になる。ただし、その線が見えるようになるためには、まず誰になんと言われようと恐れずに、泥臭く点を打ち続ける勇気がいる。 そして「昨日までの自分をあっさり捨てて新しく打った点」に対して、一切の罪悪感を持たないことが……履歴書が汚れることなど笑って見過ごす図太さが、何より大切なのだ。
おわりに
あなたは、このまま飽きっぽくていい。 一つのことに執着できず、常に新しい輝きを求めて、子供のように目をキラキラさせながらクレジットカードを切る、その落ち着きのないあなたで良いのだ。
その飽きっぽさを病気や怠慢だとして無理やり矯正し、自分を一つの檻に閉じ込めようとした時、あなたの最も美しい才能である無尽蔵の好奇心と開拓精神の炎は音を立てて消えてしまう。
もし今のあなたが、自分の特性を押し殺して息の詰まる環境にいるのなら、一度性格相性診断で自分のOSが真に求めている環境要件を見直してみてほしい。 あなたは何も間違っていない。ただ、少しばかり世界に飽きるのが早すぎる、可能性探索の天才なだけなのだ。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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