
いい人材なのに辞めていく──採用ミスマッチの見えない地雷
採用ミスマッチの大半は、個人の能力不足から起きるのではない。本来なら優秀なはずの人材が、自分の認知パターンと絶望的に合わない組織OSに放り込まれた結果、本来の力を全く発揮できずにただただ消耗して去っていくのだ。
面接の受け答えは完璧だった。履歴書も職務経歴書も申し分ない。スキルも経験も現場の要求水準をクリアしている。それなのに入社3ヶ月でなんとなく顔が曇り始め、半年経った頃に突然ちょっとお話がありますと会議室に呼ばれ、退職の相談が出る。
この、いい人材なのになぜかうちには合わないという現象。多くの中小企業の人事担当者や経営者にとって最も胃の痛くなる問題の一つだろう。エージェントに払った高額な採用コスト、現場の先輩がOJTに割いた時間、チームが期待していた未来の戦力──それらすべてが、たった数ヶ月で水泡に帰すあの徒労感。
しかもこのパターンは繰り返す。何度採用を重ねても、同じポジションで同じように人が辞めていく。
エン・ジャパンの2025年の調査によると、入社1年以内の離職理由のトップは社風・雰囲気が合わなかったで、スキルや業務内容のミスマッチを大きく上回っている。つまり、多くの企業が最も重視している即戦力かどうかの判断は、実は早期離職の主原因ではないのだ。
退職エントリを開けば、生々しいミスマッチの体験談が山のように見つかる。面接のときに感じた些細なコミュニケーションのテンポの違和感を、せっかく内定が出たし気にしすぎだろうとスルーした結果、たった1ヶ月で退職代行を使う羽目になった──といった話だ。
スキルマッチの罠
ほとんどの企業の採用面接は、スキルマッチの確認に終始している。この人はうちの業務をこなせるスキルを持っているか。経験は十分か。即戦力になれるか。
もちろんスキルは大事だ。でも早期離職の原因を調査すると、スキル不足が直接の原因であるケースは実はそれほど多くない。圧倒的に多いのは社風が合わなかった、上司とのコミュニケーションがうまくいかなかった、仕事のやり方に違和感があったといった、カルチャーの不一致だ。
スキルは入社後に伸ばせる。しかし情報処理のパターンや価値観の根幹部分は、研修で変えることはほぼ不可能だ。
ここに、性格タイプ理論の出番がある。
組織にもOSがある
人に認知パターンがあるように、組織にも固有のOSがある。
たとえばTe(外向的論理)主導の組織。数字と効率を最重視し、PDCAサイクルを高速で回す文化。成果主義で、KPIで評価し、結論から話すことが正義。こういう組織にFi(内向的感情)主導のINFpタイプの人材を配置したらどうなるか。
INFpは自分の内的価値観に基づいて動く。なぜこの仕事に意味があるのかが見えないと力が出ない。数字で成果を急かされると、自分の信念を踏みにじられているように感じる。
スキルは足りている。やる気もあった。でも組織のOSと個人のOSが根本的に噛み合わない。結果、消耗して去っていく。
逆のケースもある。Ni(内向的直観)主導で長期ビジョンを重視する人材が、Se(外向的感覚)主導の朝令暮改型組織に入ったら。目の前の数字に追われ続けて、自分のビジョンを構築する時間がまったく取れないストレスに潰される。
筆者が人事コンサルティングの現場で見た事例では、あるITスタートアップでSe主導のスピード文化にNi主導のPMを採用してしまい、わずか2ヶ月で退職に至ったことがあった。本人は前職では極めて優秀な成績を残していたにもかかわらず、だ。環境が変わるだけで人はここまでパフォーマンスが変わるのかと、改めて認知パターンの重要性を痛感した。
転職で自己PRを組み立てる際のタイプ別ポイントでも触れているが、候補者側も自分のOSを理解していないことが多いため、ミスマッチは双方の自己理解不足から生じる。
当サイトの診断ユーザーのうち転職経験者に限って集計したところ、前職の退職理由として業務内容が合わなかったと答えた人が約3割だったのに対し、組織の雰囲気や仕事の進め方が合わなかったは約6割に上った。スキルマッチだけ見ていてもミスマッチは防げないことを、数字が裏付けている。
面接で使える3つの質問
では、スキルの裏にある認知パターンを面接でどう見抜くのか。直接的に性格診断をするのではなく、自然な質問の中から認知スタイルを推測する方法がある。
質問1──情報処理の方向性を探る
まったく新しいプロジェクトを任されたとき、一番最初に何をしますか?
この質問への答え方で、Te/Ti/Ne/Siのうちどの情報処理エンジンを主導で回しているかがうっすら見えてくる。
まずは全体のスケジュールを引いてゴールを設定しますと淀みなく答える人はTe寄り。過去の類似事例を調べて手堅いやり方を確認しますと答えるならSi寄り。とりあえずいろんな可能性を探って面白そうな切り口を考えますならNe寄り。作業に入る前にそのプロジェクト全体の仕組みや構造をまず理解したいですと答える人はTi寄りだ。
回答の良し悪しではない。これが組織のOS(例:Te的な成果主義文化)と合っているかどうかを見る。
質問2──モチベーション源の特定
これまでの仕事で最も充実感を感じた瞬間はいつですか?
数字的な成果を挙げる人と、誰かの役に立てた体験を挙げる人と、自分の理論が正しかったと証明された瞬間を挙げる人では、内発的モチベーションの源泉がまったく違う。
組織が提供できるモチベーション源と候補者のエネルギー源は一致しているか。ここがズレていると、採用直後は高いモチベーションを見せていても半年後にはガス欠を起こす。
質問3──ストレス反応の確認
仕事で一番ストレスを感じるのはどんな状況ですか?
この質問で出てくる状況が、自社で日常的に発生するものかどうかを照合する。
急な方針変更がストレスですと答える人を、変化が激しいスタートアップに採用すれば確実にミスマッチが起きる。自由度がないのがストレスですと答える人を、マニュアル重視の大企業に入れても同じ結果だ。
この質問は弱みを暴くためではなく、環境適合性を事前に検証するためのものだ。筆者の経験では、3つ目の質問が最も有効だった。候補者のストレス源が自社の日常と重なるかどうかは、カルチャーフィットの最大の試金石になる。
組織の自己理解という盲点
面接で候補者を見極めることと同じくらい重要なのが、組織自身のOSを自覚することだ。
自社の意思決定はどの機能で駆動しているか。Te的に数字で判断するのか、Fe的に関係性を重視するのか、Ni的にビジョン先行なのか、Se的に現場主義なのか。
自社のOSを言語化できていない企業は、面接で何を見るべきか分からないまま採用し続けることになる。結果、何度採用しても同じポジションで同じ理由で人が辞めていくループにはまる。
X(旧Twitter)で、ある中小企業の経営者がこう投稿していた。
──3年間で同じ営業職のポジションに5人採用して5人とも辞めた。6人目を採用する前にうちの会社のカルチャーを全員で言語化するワークショップをやった。結果、うちはTe×Se文化だと分かった。7人目は初めてそこにフィットする人を意識的に選んだ。3年経った今も活躍してくれている。
就活で自己分析をするときのフレームワークは候補者向けに書かれた記事だが、採用する側がこのフレームワークを自社に適用すると、自社に必要な認知パターンがクリアに見えてくる。
適性検査の正しい使い方
ここまで読んで、じゃあ適性検査を導入すればいいのかと考えた人もいるだろう。半分正解で半分間違いだ。
市販の適性検査の多くは、性格特性を数値化して可視化してくれる。これ自体は有用だ。ただ、出てきた数値をどう解釈するかの部分で、ほとんどの企業が躓いている。
たとえばある候補者の協調性スコアが低く出たとする。まず多くの人事担当者はこの人はチームワークが苦手なのかと判断するが、それは早計だ。協調性の低さは個人作業を好む認知パターンの反映かもしれないし、Te主導で効率を追求するタイプの現れかもしれない。後者なら、自走力を求めるチームではむしろ最適な人材だ。
数値だけを見て合否を決めるのではなく、自社のOSとのフィット度を判断する材料として使う。適性検査は篩い落としの道具ではなく、面接の質問を設計するための情報源だと考えるべきだ。
中小企業でもできる3ステップ
大企業のように専任の採用チームがいない中小企業でも、ミスマッチ防止は始められる。
ステップ1──自社OSの言語化。社内の中核メンバー5名程度に、うちの会社の意思決定でもっとも重視されるものは何かを自由回答で書いてもらう。数字や効率が多ければTe文化、人間関係や和が多ければFe文化。回答の傾向を見るだけで、自社OSの輪郭が浮かび上がる。
ステップ2──過去の成功・失敗パターンの棚卸し。3年以上定着したメンバーと、1年以内に辞めたメンバーの共通点と相違点を整理する。何がフィットして何がフィットしなかったのか。この棚卸しから出てくるパターンは、どんな高額な採用コンサルよりも正確な自社データだ。
ステップ3──面接での3つの質問の導入。先述したstressテストの3質問を面接フローに組み込む。候補者の回答を自社文化との照合リストとして蓄積していけば、半年後には自社独自のカルチャーフィット基準がデータとして確立される。
筆者が中小企業の人事改善プロジェクトに関わった際も、この3ステップだけで入社後3ヶ月以内の早期離職率が4割から1割に減った事例がある。特殊なことはしていない。自分たちのOSを知り、それに合う人を意識的に選ぶようにしただけだ。
採用ミスマッチを減らすために最も効果的なのは、面接のテクニックを磨くことではない。うちの組織はこういうOSで動いていると正直に可視化し、それをそのまま候補者に伝えることだ。
盛った会社説明で優秀な人材を引き寄せても、入社後にうちの本当のOSはこれだったのかと気づかれたら、そこから先は消耗戦にしかならない。
組織のOSと、候補者のOSの相性を事前に確認する。それだけで、早期離職の何割かは確実に防げる。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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