
いい人材なのに辞めていく──採用ミスマッチの見えない地雷
「面接での受け答えは完璧でした。スキルも経験も現場の要求水準をクリアしていたんです。それなのに入社3ヶ月で『ちょっとお話があります』と会議室に呼ばれて……」
ある中小企業の社長が、疲労の色を隠せない様子で私に語った。エージェントに払った高額な採用コスト、現場の先輩がOJTに割いた時間、チームが期待していた未来の戦力。それらすべてが、たった数ヶ月で水泡に帰す徒労感。この「いい人材なのになぜかうちには合わない」という現象は、多くの中小企業の人事担当者や経営者にとって最も胃の痛くなる問題だ。しかもこのパターンは繰り返す。何度採用を重ねても、同じポジションで同じように人が辞めていく。
採用ミスマッチの大半は、個人の能力不足から起きるのではない。本来なら優秀なはずの人材が、自分の認知パターンと絶望的に合わない「組織OS」に放り込まれた結果、本来の力をまったく発揮できずにただ消耗して去っていくのだ。
ほとんどの企業の採用面接は、スキルマッチの確認に終始している。「この人はうちの業務をこなせるか」「即戦力になれるか」。 もちろんスキルは大事だ。でも早期離職の原因を調査すると、スキル不足が直接の原因であるケースはそれほど多くない。入社1年以内の離職理由のトップは「社風・雰囲気が合わなかった」であり、スキルや業務内容のミスマッチを大きく上回っている。退職エントリを開けば、「面接のときに感じた些細なコミュニケーションのテンポの違和感をスルーした結果、たった1ヶ月で退職代行を使う羽目になった」といった生々しい体験談が山のように見つかる。 スキルは入社後に伸ばせる。しかし情報処理のパターンや価値観の根幹部分は、研修で変えることはほぼ不可能だ。
人間に認知パターンがあるように、組織にも固有の「OS」がある。
たとえば外向的論理(Te)主導の組織。数字と効率を最重視し、PDCAサイクルを高速で回す文化。結論から話すことが正義とされる。こういう組織に、内向的感情(Fi)主導のタイプの人材を配置したらどうなるか。 Fi型は自分の内的価値観に基づいて動くため「なぜこの仕事に意味があるのか」が見えないと力が出ない。数字で成果を急かされると、自分の信念を踏みにじられているように感じる。スキルは足りていた。やる気もあった。でも組織のOSと個人のOSが根本的に噛み合わず、結果として消耗して去っていく。
逆のケースもある。筆者が人事コンサルティングで関わったあるITスタートアップでは、外向的感覚(Se)主導の「とりあえずやってみよう」というスピード文化に、内向的直観(Ni)主導の「長期ビジョンを重視する」PMを採用してしまい、わずか2ヶ月で退職に至った。本人は前職で極めて優秀な成績を残していたにもかかわらず、だ。環境が変わるだけで人はここまでパフォーマンスが変わるのかと、改めて認知パターンの重要性を痛感した。
転職で自己PRを組み立てる際のポイントでも触れているが、候補者側も自分のOSを理解していないことが多いため、ミスマッチは双方の自己理解不足から生じる。当サイトの診断データでも、退職理由として「業務内容が合わなかった」と答えた人が約3割なのに対し、「組織の雰囲気や仕事の進め方が合わなかった」は約6割に上った。スキルマッチだけを見ていてもミスマッチは防げない。
では、スキルの裏にある認知パターンを面接でどう見抜くのか。直接的に性格診断をするのではなく、自然な質問の中から推測する方法がある。私が面接官によく提案するのは、以下の視点を持つことだ。
一つ目は、「まったく新しいプロジェクトを任されたとき、一番最初に何をしますか?」という情報処理の方向性を探る質問だ。「まずは全体のスケジュールを引いてゴールを設定します」と淀みなく答える人はTe寄り。「過去の類似事例を調べて手堅いやり方を確認します」と答えるならSi寄り。「とりあえずいろんな可能性を探って面白そうな切り口を考えます」ならNe寄り。「作業に入る前にそのプロジェクト全体の仕組みを理解したい」と答える人はTi寄りだ。回答の良し悪しではなく、これが自社のOSと合っているかどうかを見る。
二つ目は、「これまでの仕事で最も充実感を感じた瞬間」を聞くことでモチベーション源を特定すること。数字的な成果か、誰かの役に立てた体験か、自分の理論が証明された瞬間か。組織が提供できるモチベーション源と候補者のエネルギー源がズレていると、半年後には確実にガス欠を起こす。
そして三つ目が最も有効なのだが、「仕事で一番ストレスを感じるのはどんな状況ですか?」とストレートに聞くことだ。急な方針変更がストレスだと答える人をスタートアップに採用すればミスマッチが起きるし、自由度がないのがストレスだと答える人をマニュアル重視の企業に入れても同じだ。弱みを暴くためではなく、環境適合性を事前に検証するための質問である。
面接で候補者を見極めることと同じくらい重要なのが、組織自身のOSを自覚することだ。 自社の意思決定はどの機能で駆動しているか。Te的に数字で判断するのか、Fe的に関係性を重視するのか。自社のOSを言語化できていない企業は、面接で何を見るべきか分からないまま採用し続け、同じポジションで人が辞めていくループにはまる。
私が関わった中小企業の改善プロジェクトでは、特別なことは一切しなかった。中核メンバーに「うちの会社で最も重視されるものは何か」を書いてもらい、過去に定着したメンバーとすぐ辞めたメンバーの共通点を洗い出し、自社のOSの輪郭を言語化しただけだ。そのうえで、面接フローに先ほどの質問を組み込み、候補者の回答と自社のカルチャーを照合するようにした結果、入社後3ヶ月以内の早期離職率が4割から1割に激減した。
採用ミスマッチを減らすために最も効果的なのは、面接のテクニックを磨くことではない。「うちの組織はこういうOSで動いている」と正直に可視化し、それをそのまま候補者に伝えることだ。盛った会社説明で優秀な人材を引き寄せても、入社後に「うちの本当のOSはこれだったのか」と気づかれたら、そこから先は消耗戦にしかならない。
組織のOSと、候補者のOSの相性を事前に確認する。それだけで、無駄な離職という不幸の連鎖は確実に断ち切れるのだ。
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※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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