
人事が病む構造的理由──他人の人生を背負い疲弊する性格OSとは
夜21時のオフィス。静まり返ったフロアには、空調の低いモーター音と、蛍光灯の無機質な白い光だけが満ちている。 あなたは自分のデスクに座り、パソコンの画面に広がるスプレッドシートをただ虚無の目で見つめている。そこには、あなたが面接をして入社を決めた新入社員の評価リストや、あるいは次の組織再編で配置転換(実質的な肩叩き)を余儀なくされる人々の名前がずらりと並んでいる。
今日の午後、面談室で泣き崩れた若手社員のことを思い出す。 高圧的なマネージャーからの理不尽な要求に耐えきれず、彼はボロボロになっていた。あなたは静かにティッシュを差し出し、彼の取り乱した言葉に45分間、ただひたすら寄り添って耳を傾けた。 しかしその1時間後、経営会議に呼び出されたあなたは、役員からスマートフォンから目を離すことすらなく冷たくこう言い放たれるのだ。 「あの部署の離職率が3%上がっているが、どういうことだ。使えないなら甘やかさずに早くPIP(業務改善計画)の対象に乗せてくれ」
あなたは毎日、笑顔を作り、何度もうなずき、誰に対しても「わかりますよ」「承知いたしました」と口にする。 あなたは、強固で冷徹な企業の論理という機械と、現場で傷つき摩耗する従業員という人間の間を繋ぐ、たった一つの緩衝材だ。あなたは下からの涙を吸い上げ、上からの冷たい氷のような数字の要求を受け止める。
だが、夜のオフィスで一人取り残されたあなた自身の涙は、一体誰が受け止めてくれるのだろうか。
実は、企業という巨大なシステムにおいて、最も内面的に破壊され、静かに心が死んでいくのは人事プロフェッショナルたちである。 私自身も長くHR領域に身を置いてきたからこそ、この役割が持つ耐え難い重力を骨の髄まで理解しているつもりだ。面談室で鬱々と泣き出してしまう彼らにティッシュを差し出しながら、「ああ、この会社はもうどうしようもなく壊れているな」と、吐き気のような無力感に襲われた夜が何度あったことか……。
人事という仕事は、本来的に他者への高い共感性や面倒見の良さ(外向的感情=Fe)を持つ人々を強く惹きつける。しかし皮肉なことに、企業のシステムは、彼らのその美しい共感性を無料の燃料として燃やし尽くすように設計されているのだ。 この記事は、今まさにもう人事を辞めたいと静かな退職の一歩手前にいるあなたへ送る、性格OSの診断書であり、自己防衛のためのプロトコル(取扱説明書)である。
まずは、あなた自身が本来どのような性格OSを持って生まれてきたのか、組織の中での立ち位置をピラー記事から確認してみてほしい。
優しい人事から壊れる
なぜ、これほどまでに毎日が息苦しく、重い疲労感が抜けないのか。 それはあなたが単に業務をこなしているだけでなく、目に見えないシステムのエラー処理を一身に引き受けているからだ。
感情の最終処分場
会社の人間関係でトラブった時、あるいはキャリアに絶望した時、従業員は社長のところへは行かない。あなたのところへ来るのだ。 彼らは不満、恐怖、怒り、そして会社に対する強烈な裏切りの感情を、すべてあなたという窓口に投げ込んでくる。あなたのデスクや面談室は、組織全体の感情の最終処分場(ゴミ捨て場)として機能している。
あなたの性格OSがENFj、ESFj、INFp、ISFjなどのように他者の感情に同調するアンテナ(Fe)を主機能または補助機能として強く持っている場合、この状況は致命的だ。 あなたは彼らの苦情を、ただの音声データとして聞くことができない。彼らが感じている理不尽な痛みや絶望感を、まるで自分自身の痛みであるかのように、心の一番柔らかい部分に直接ダウンロードしてしまうのだ。
これは何かの比喩ではない。共感性の高いOSを持つ人間にとって、他者の痛みを受信し、同期することは、バックグラウンドで強制的に実行されてしまう自動プログラムなのだ。 週末になっても頭から離れない面談での暗い表情。日曜日の夜に押し寄せる吐き気。一週間の終わりにあなたのキャッシュメモリは他人のトラウマで完全にパンクしており、休日に友人の他愛のないLINEに返信することすら億劫になるほど、精神のエナジーが枯渇しきっている。
経営層の論理という冷水
そして、人事の悲劇は従業員の愚痴を聞かされることだけでは終わらない。真の地獄は、吸い上げたその重たい感情を抱えたまま、冷徹な経営層と対峙しなければならない瞬間に訪れる。
あなたが必死の思いで「田中さんが現場で潰れかけています。〇〇マネージャーのやり方は少し行き過ぎです」と進言したとする。 しかし、外部効率と数字の最大化(外向的思考=Te)のみを指標として動く経営陣は、冷たいスプレッドシートを一瞥してこう返す。 「田中は今クォーターの目標を未達だよね。第3四半期までに数字を作れないなら、降格か異動で処理して。君の方でうまく説得してよ」
あなたは、この刃物のように冷たく尖った論理を持ち帰り、どうにかオブラートに包み、柔らかい言葉に変換して、ボロボロになっている当の田中さんに突きつけなければならない。 この時、あなたの心の中にある倫理観や共感のOSは、強烈な軋みを上げて悲鳴を上げている。あなたは、自分自身が一番残酷だと感じているシステムの意志を代行し、誰かにトドメを刺すという感情的な裏切りを強い力で強制されているのだ。
共感OSの熱暴走構造
どうしてここまで心底辛いのか。 それは、あなたのOSのファイアウォール(防護壁)に、深刻な仕様の抜け穴が存在するからだ。
境界線が溶ける仕様
適切に構築されたビジネスライクなOSを持つ人間であれば、「これは会社の問題であって、私の個人的な問題ではない」と、はっきりとした境界線(ハードライン)を引くことができる。彼らは業務時間が終われは、会社のトラブルをロッカーに置いてスッキリと帰宅できる。
しかし、あなたの共感OSには、そのような強固な境界線が存在しない。 自分と他者の境界が限りなく曖昧(多孔質)に設計されているのだ。だからこそ、誰かにネガティブな査定結果を伝えたり、退職勧奨に近い話をしたりする時、あなたはただメッセージを伝達しているのではない。 あなたは無意識のうちに、「この人が今夜家に帰って、家族にこの評価を伝える時、どれほどの絶望を感じるだろうか」という最悪のシミュレーションを脳内で実行し、その架空の痛みに勝手に被弾して血を流しているのだ。
自分で自分を刺しているようなこの矛盾したプロセスこそが、優しい人事を鬱病や休職へと追い込む熱暴走の正体である。
誰からも守られない孤独
さらに残酷な皮肉がある。あなたは組織の中で保護者(ケアをする側の人間)として配置されているため、周囲の全員が、あの人は大丈夫だ、強い人だと勝手に誤認しているという事実だ。
従業員から見れば、あなたは結局のところ嫌な会社の手先に過ぎない。もし会社に対して憎悪を抱けば、彼らは何の躊躇もなく、その憎悪の矛先を人事であるあなたへと向けてくる。 一方で経営層から見れば、あなたは組織の歯車を潤滑に回すための便利な油に過ぎず、あなたがどれほど心を砕いているかなど数字に表れないため、全く評価の対象にならない。
「あなた自身は、今日、大丈夫ですか?」 そう声をかけてくれる人間は、この会社に一人もいない。 あなたは全社員にストレスチェックのアンケートを淡々と送信しながら、自分自身のストレス値が真っ赤なレッドゾーンを振り切っていることを知っている。自分は砂漠で干からびて死にそうなのに、他の全員に必死で水筒の水を配り歩いているような状態。それが、悲しき人事の真の姿なのだ。
そして、最も残酷なのは、あなたが自分の上司(例えば論理重視のTe型マネージャー)に助けを求めても、おそろしく話が通じないことだろう。「もっとドライに事務処理として片付けろ」と冷たく言われるだけで終わりだ。自分の心を守るためには、こういった根本的に分かり合えない相手とのOS相関性を客観的に知っておくことが防波堤となる。自分がおかしいのではなく、通信表とプロトコルが全く噛み合っていないだけの話なのだ。
弊社の診断結果でも、人事・対人援助職のユーザーの約8割がFe(外向的感情)を主機能もしくは補助機能に持っており、彼らは他人の感情を自分の痛みとして受け取ると回答する割合が他職種の2倍以上に及ぶ。自分のタイプが気になったら、1分タイプチェックで傾向を掴んでおくとよい。
境界線を引く防衛策
もしあなたが、心を完全に灰にしてしまうことなく、このまま人事という職域で生き残りたいと願うなら、残酷かもしれないが、自分の仕様を意図的に上書き(オーバーライド)する技術を学ばなければならない。
感情のシャットダウン
面談室で従業員が泣き崩れた時、あなたの中の共感OSが起動するよりも前に、意識的に強いファイアウォールを立ち上げる訓練をすることだ。
私は今、彼が悲しんでいるという事実を客観的に観測している。しかし彼の悲しみは、決して私自身の責任ではない、と心の中で繰り返し、暗唱するのだ。
共感性が高く優しい人(Fe主導のあなた)にとって、この態度は信じられないほど冷徹で、まるで罪を犯しているかのような強烈な違和感と罪悪感を伴うだろう。 だが、絶対に忘れないでほしい。 溺れている人を助けるために、あなたまで一緒に海に飛び込んで一緒に溺死してしまっては全く意味がないのだ。真の救助とは、あなたは安全な船の上(プロフェッショナルとしての客観的な立場)にしっかりと両足を踏ん張ったまま、泣いている相手に向かってロープのついた浮き輪を正確に投げ込むことである。
相手との間に一定の距離と冷酷さを保つことは、決して冷たいことではない。 それは、あなたが明日も明後日も、誰かを継続的にサポートするための、絶対に揺るがしてはならない絶対条件なのだ。
逃げる勇気という選択
そして、最後にもう一つの究極の真理をお伝えしたい。
この世の中には、人間の尊厳をあまりにも軽視し、人をただの消費されるリソースとしか見なさない、根本的に狂ったウイルスのような企業文化が確実に存在する。(数字のみを狂信的に追い求める過剰なTe環境などだ)。 もしあなたの会社がその類のものであれば、あなたがどれほど己の心を擦り減らしてクッションになろうとも、状況が良くなることは永遠にない。
日曜日の夜、ベッドに入って月曜日の朝のオフィスを想像した時、胸に鉛のような重さを感じて呼吸が浅くなるのなら——。 あるいは、他人の退職面談で「この人は逃げられて羨ましい……」と、心底ドロドロとした嫉妬を抱いてしまったことがあるのなら。 もう、そろそろ、その泥でできた船から降りる準備を始めるべきだ。
あなたのその高い共感能力、人間の複雑な感情の機微を読み取る力、そして面談室で相手にこの人になら話しても大丈夫だと思わせる天性の信頼構築力。それは、AIには決して代替することのできない、極めて稀有で尊いスキルなのだ。 そんな素晴らしい能力を、あなたを都合の良い肉の盾としてしか機能させないような不条理なシステムのために浪費してはいけない。
あなたは、人を傷つけるためでも、会社の論理の尻拭いをするためでもなく、誰かの人生を少しでも良くしたいという純粋な願いから人事という仕事を選んだはずだ。 その思いそのものは、絶対に間違っていない。ただ、その優しさという美しい花を咲かせるための土壌が、今の職場において徹底的に腐っているだけなのだ。
今の職場で自分がどれだけすり減っているのか、あるいは自分のOSが真に輝ける別の土壌があるのか。16タイプ相性診断で、組織と自分の客観的な適性を冷静に見つめ直してみるのも、あなたを救うための一つの防衛策である。 もう、誰も見ていない夜のオフィスで、他人の人生の重さに一人で押し潰される必要はない。あなたは、あなたの人生だけを生きれば良いのだから。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。強い抑うつ、不眠、希死念慮等がある場合は医療機関や公的相談窓口への相談を優先してください。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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