
完璧な未来が怖い理由──マリッジブルーに陥るリスク回避OSの正体
両親への挨拶も無事に終わり、式場の予約も完了した。 友人たちからはおめでとう、幸せになってねなどと祝福され、SNSには幸せそうな指輪の写真をアップした。 お相手は、浮気の心配もない誠実で優しい人だ。あなたの話をよく聞き、家事にも協力的で、彼(彼女)との結婚を周囲の誰もが手放しで喜んでくれている。
客観的に見れば、何の不満もない、まさに完璧な幸せの絶頂にいるはずだ。 だが、その見事なまでに舗装された未来へのレールを前にして、あなたは深夜、急に息ができなくなるほどの強烈な閉塞感に襲われる。
「本当にこの人でよかったのだろうか」 「一度結婚したら、もう二度と別の人生を選ぶことはできないのではないか」 「もし5年後、相手が信じられないモラハラ体質に豹変したらどうしよう」
相手に対する愛が急に冷めたわけではない。それなのに、まるで断頭台へ向かう死刑囚のように足が重くなり、すべてを白紙にして逃げ出してしまいたいという強烈な発作(衝動)が湧き上がる。 友人に相談しても「マリッジブルーだよ」「誰でもあるから大丈夫」と軽く笑い流され、ますます自分の真っ暗な孤独感は深まっていくばかりだ。「あぁ、私のこのヒリヒリした怖さを分かってくれる人は、彼を含めて世界に誰もいないんだ」と。
もしあなたが今、この理不尽なマリッジブルーに一人で耐え忍んでいるとしたら。 人事として数多くのキャリアや人生の決断の裏側を覗いてきた筆者から、あなたに一つだけ心理的な免罪符をお渡ししたい。
あなたが陥っているその恐怖は、相手への愛の不足でも、あなたの性格の欠陥でもない。 あなたに搭載されているリスク検知機能──あらゆるパターンの最悪を予測する可能性探索OSが、他のすべての選択肢が消滅するという異常事態を検知し、システムに強力なエラーアラートを発報しているだけの、極めて正常な防衛本能なのだ。
あなたは自分が異常なのではないかと疑っているかもしれない。 まずは、あなたの性格OSがそもそも決断という行為に対してどう反応しやすい仕様なのか、ベースとなる性格タイプから確認してみよう。
選ぶことで生じる恐怖
結婚という言葉の裏にある真の絶望とは何か。 それは、たった一人の運命の相手を見つけたというロマンチックな事実の裏面に張り付いている、残りの数十億人の可能性をすべて自らの手で殺さなければならないという重い事実である。
退路が絶たれるという閉塞感
もしあなたの性格機能が、未来のあらゆる可能性を無意識に計算してしまうN型(直観型、特にNe)や、最悪のリスクを徹底的に洗い出して安全網を張ろうとするSi型(内向的感覚)を強く持っていた場合、結婚という契約は一種のバグを引き起こす。
なぜなら彼らのOSの基本設計は、選択肢を常に複数確保しておくことでシステム全体の生存確率を上げるという方針に最適化されているからだ。 AがダメでもBという道がある。今の仕事が嫌になれば、最悪転職すればいい。 これが、彼らが不確実な荒波を乗り越えるために用意している心のクッションなのである。
あなたはどうだろうか。今まさに、そのクッションをすべて取り上げられる恐怖に震えていないだろうか。
しかし結婚という社会的契約は、多くの場合この退路を完全に断ち切ることを要求する。 今からの人生はこのAという道しかない。BもCも今日この瞬間にすべてこの手で燃やして捨てろと迫られているのに近い。 あなたの優秀なリスク管理OSは、このバックアップデータが一つもない完全な一点賭けという状態に対して、本能的な恐怖と強烈な拒絶反応(エラー)を起こしているのだ。
弊社の診断データでも、人生の重大な決断の前に強い不安を覚えると申告するユーザーの約6割がN型(直観型)OSを持っており、特にNe主導型は選択肢が消えること自体がストレスだと回答する割合が他タイプの2倍以上に及ぶ。自分のタイプが気になったら、1分タイプチェックで確かめてみてほしい。
可能性の死と現状維持
あなたが怖いのは、彼との結婚生活ではない。 永遠にこの予定調和のまま、自分の人生が完全に分かりきった状態で終わっていくのではないか──そんな可能性の死に対する恐怖なのだ。
先が見えすぎることの絶望
先が見えないことは怖い。だが、知的で想像力豊かな性格OSを持つ人々にとって、先が完全に透けて見えすぎてしまうことは、それと同等か、それ以上の強烈な絶望をもたらすことがある。 「来年は子供が生まれて、彼が順調に昇進して、35歳で郊外に一軒家を買って、休日は家族揃ってショッピングモールに行って……」 その寸分違わぬ「安全で幸せで、そして圧倒的に退屈な未来のシミュレーション」が脳内で完成してしまった瞬間、ひねくれた探索OSは悲鳴を上げる。もうこの先の人生で、私を心から驚かせるような未知のデータポイントも、ドラマチックな波乱も一生手に入らない(死ぬまでこの平坦なレールの上を走るだけの人生が確定した)のだ、と。 そして逆説的なことに、不安定だった独身時代や、少し危険な香りのする相手と付き合っていた頃のあのヒリヒリするような不安感のほうに、人間心理は強いノスタルジーを感じてしまう。脳が強烈な刺激を欲しているからこそ、わざと自爆ボタンを押して、今の「どうしようもなく小綺麗で完璧な現状」を理不尽に破壊したくなってしまうのだ。
(このように、自分からあえて困難な道を選んだり、相手のアラを探して関係をリセットしたくなる自滅的な性格のバグについてはこちらの記事でも詳細に語っている)。 相手の性格OSが安定重視のもので、あなたが刺激重視の場合、この「退屈のすれ違い」は結婚後に致命傷になり得る。後悔する前に互いの相性相関図を突き合わせておくのが重要だ。
彼が嫌いになったわけではない。あなたの脳が、退屈で完璧すぎる未来という名の牢獄から、無理やり脱獄しようと暴れているだけなのである。
決断のロック解除法
では、このマリッジブルーという名の強固なシステムロックを解除し、前に進むためにはどう考えればいいのか。
完璧な選択などないと知る
あなたがマリッジブルーに陥るのは、結婚という選択は絶対に間違えてはならない完璧な一度きりの決断であるという強烈な思い込みがあるからだ。呪いと言ってもいい。 しかし、人事の現場であらゆる人間のキャリアとライフプランを見てきた私からすると、そんな完璧な決断など世界のどこにも存在しない。
結婚したからといって、あなたの可能性がすべて死滅するわけではない。 選ばなかったBやCの道は、結婚というフィルターを通した後でも、まったく別の形──仕事の挑戦や趣味の開拓──でいくらでも再構築できる。結婚は人生のゴールでも完全な固定化でもなく、このベースキャンプから次にどんな可能性をハックしてやろうかという、新しいOSへのアップデートに過ぎない。
間違えたらどうしようと不安になるのは、あなたがそれだけ相手との関係に責任を持ち、真剣にシミュレーションを行っている(あなたの思考OSがフル稼働している)証拠である。 何も考えず勢いだけで結婚し、あとから盛大に炎上するような人間に比べれば、あなたのそのマリッジブルーは遥かに知的で、尊い苦悩なのだ。
壊れかけて始まった結婚
一つ、筆者が面談で出会ったカップルの話をさせてもらう。
彼女はNe主導型の典型で、結婚が決まった瞬間から壮絶なマリッジブルーに突入した。毎晩のようにパートナーとの未来のあらゆるリスクを脳内でシミュレーションし、「子供の教育方針が合わなかったら?」「親の介護で意見が割れたら?」「10年後にお互い飽きたら?」と、まだ起きていない問題を30個も40個も書き出しては震えていた。 パートナーは感覚型のSi主導で、考えすぎだよ、大丈夫だってと毎回なだめるだけだった。しかし、彼女にとってその言葉は安心ではなく、リスク管理を軽視する怠慢に聞こえていた。二人の間に残酷な思考のすれ違いが生じ、婚約破棄の一歩手前までヒビが入りかけていた。
筆者が提案したのは、性格診断の結果を二人で共有し、徹底的に相手のハードウェア構造を理解するという極めてロジカルなアプローチだった。 彼女がなぜこれほどまでに不安を感じるのか(Neの可能性探索が暴走していること)、そしてパートナーがなぜ彼女の不安を楽観で流してしまうのか(Siの現状維持バイアスが強いこと)。それぞれのOSの仕様書を読み合わせたのだ。
パートナーはその時初めて、彼女が不安を感じたいわけではなく、OSの仕様として起こりうるすべてのパターンを事前にコンパイルしないとシステムが安定しないのだと深く理解した。 そして彼女もまた、相手の放つ大丈夫という短い言葉は無責任な慰めではなく、Siという現実の歴史データベースがこれまで乗り越えてきた実績が十分にあるから絶対に乗り切れると弾き返している正当な出力結果なのだと理解した。二人は愛の深さを疑い合っていたのではなく、単に送受信しているデータのフォーマットが違っていただけだった。
その日以降、二人のコミュニケーションの質は劇的に変わった。 不安なの、大丈夫だよという噛み合わない感情のぶつけ合いが、「私のNeが今こういうリスクパターンを3つ出している」「OK、俺のSiのデータベースだとこういう前例が2つあるからこれで防げる」という、互いのOSの強みを補完し合うチームとしての極めて高度な対話に変わったのだ。彼らはマリッジブルーという危機を乗り越えたことで、結婚式の前に誰よりも強固で論理的なパートナーシップを築き上げることに成功した。 彼らは今、結婚4年目になるが、お互いのOSの取扱説明書を冷蔵庫に貼り付けているという。笑い話のようだが、これは冗談ではなく、二人にとって最も重要な生活のセーフティネットなのだ。
おわりに
あなたは、このままでいい。 泣いてもいいし、逃げ出したいと喚いてもいい。相手にちょっと今、マリッジブルーでシステムエラーを起こしていると、そのカッコ悪い自分の配線をそのまま見せてみるのも一つの手だ。
結婚前に、お互いのOSの強みと弱み、そしてストレスがかかった時にどういうバグを起こしやすいのか、カップル相性診断でお互いの説明書を見せ合っておくのも、今後のリスクヘッジとして有効だろう。お互いのOSの相性を数値化したカップル相性ページも参考になる。
恐れることはない。 あなたのその「最悪をシミュレーションしすぎる慎重なOS」が選び抜いた決断ならば、結婚後にどんなトラブルや飽きが来ようと、あなたは必ずそれをぶち壊し、新しい最適解のアルゴリズムをその都度構築していけるはずなのだから。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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