
なぜ伝わらないのか──認知機能別OJTの教え方フレームワーク
OJTで何度教えても伝わらないのは、教え方と新人の認知機能がズレているだけ。入口を仕様に合わせれば吸収速度が変わる。
教え方が合わない焦り
OJTトレーナーの悩みで一番多いのは、一生懸命教えてるのに伝わらないというやつだ。
ある人材育成会社の調査では、OJT担当者の悩みのトップが教え方・伝え方の難しさで、次が後輩の反応・態度、3位が後輩の悩みや不安の察知が難しいだった。全部、コミュニケーションの問題に見える。でも本当の問題はもう少し根が深い。
3回説明したのに同じミスをする新人がいる。一方で、1回見せるだけで覚えてしまう新人もいる。この差は知能や意欲の差だと思われがちだけど、認知機能の受け入れ口の違いで説明できるケースがかなり多い。
たとえばTi型の新人に手順だけ教えると、なぜその手順なのかが分からないまま作業するから応用が利かないし、ミスの原因も理解できない。同じことを何度も聞いてくるように見えるけど、本人は理由が分からないことを繰り返し確認しているだけだ。逆にSe型の新人に理由から延々説明すると目が泳ぐ。このタイプはまず手を動かして、やりながら理解するOSだから。
人事として何百組ものOJTペアを見てきたけれど、トレーナーと新人の認知機能が合っている組み合わせは放っておいてもうまくいく。問題は合わない組み合わせで、これは仕組みで解決するしかない。合わないことを個人の能力不足として片付けると、トレーナー側も新人側も消耗するだけだ。
Z世代の新人育成で悩む企業が増えているけれど、世代の問題として語られることの多くは、実は認知機能のミスマッチとして説明がつく。成長意欲は高いのに、成長の実感が持てるフィードバックの形が世代ごと──というより認知機能ごとに違う、という話だ。
新人のOSを見分ける
入社初日から1週間の行動パターンで、新人の認知機能タイプはかなりの精度で推測できる。
メモを大量に取り、質問の前にノートを確認してから聞いてくる新人──Ti型の可能性が高い。論理的に理解してから動くOSだ。メモの量がやたら多いのは、理由を記録したがっているから。なぜが書かれていないマニュアルを渡されると、自分でなぜを補完しながらメモに落とし込んでいる。
ランチに誰と行くかを気にしたり、先輩の名前をすぐに覚えたりする新人──Fe型の可能性。人間関係を先にインストールするOSだ。最初の一週間で部署全員の名前と役割を把握しようとしている。
説明の途中でもう触ってみていいですかと聞く新人──Se型。言葉より体験で学ぶOS。手を動かすことへの欲求が先行する。
初日にこの会社は3年後どうなるんですかと質問する新人──Ni型。全体像が先に見えないとエンジンがかからないOS。
マニュアルを最初から最後まで順番に読みたがる新人はSi型かもしれない。手順を1つずつ着実に積み上げるOSだ。飛ばし読みを嫌い、前から順番に理解しようとする。
これはあくまで傾向だから決めつけは禁物だけど、仮説を持って教え方を試し、反応を見て修正するプロセスが大事だ。仮説→実行→検証のサイクルを回す。間違えたら修正すればいい。最悪なのは仮説を持たずに自分のやり方だけで押し通すことだ。
Ti型:理由なしでは動けない
Ti型の新人に教える際の鉄則は、手順の前に理由を入れること。
この作業はこうやりますではなく、この作業がこう機能する理由はこれで、だからこの手順になっていますと因果を先に示す。Ti型はなぜが分かった瞬間にエンジンが回り始めて、手順は勝手に覚える。逆にいえば、なぜが分からないまま覚えた手順はいつか必ず間違える。応用が効かないから。
もうひとつ有効なのが、マニュアルを自分で読ませること。Ti型は口頭の説明よりも文字情報のほうが処理しやすい。マニュアルを渡して、読んだら質問してと言うだけでいい。質問の質が高いから、そこから対話型で教えると効率が段違いに良くなる。
Ti型が同じ質問を繰り返しているように見えたら、前回の説明で理由が抜けていなかったかを振り返ること。Ti型は同じ質問をしているのではなく、まだ納得していない部分を別の角度から確認しているのだ。
Fe型:人間関係が先
Fe型の新人は、この仕事が誰の役に立っているかが見えると驚くほど吸収が速まる。
この資料は営業の○○さんが客先に持っていくもので、これがちゃんとできてると○○さんの仕事がすごく楽になるんだよね──こういう文脈情報がFe型のモチベーションエンジンの燃料になる。逆に、淡々と作業内容だけ教えると、自分がいてもいなくても同じだと感じて意欲が落ちる。
もうひとつ注意したいのは、Fe型新人の孤立は学習を止めるということ。昼食を一人で食べている日が続いたら、意識して声をかけること。人間関係のインフラが整って初めてFe型は安心して学び始められる。
Fe型の新人にフィードバックする際は、どう改善するかの前にポジティブな一言を入れる。ここは良くできてた、次はここを直すともっと良くなるという順番。Ti型にはこの前置きは不要だけど、Fe型にはこの一言があるかないかでフィードバックの吸収率が完全に変わる。
Se型:まず触らせる
Se型の新人には、説明は最小限にしてまず手を動かさせる。
失敗してもいいからやってみてが最も効く一言。Se型は身体を通じて学習するOSだから、口頭の説明を30分聞くより3分触ったほうが理解が深い。失敗したポイントを一緒に振り返ればそこが記憶に定着する。
Se型の新人にやりがちな失敗は、理由から延々説明すること。本人は黙って聞いているけれど、頭の中では早く触りたいしか考えていない。説明の半分は耳を通り過ぎている。これは怠けているのではなく、OSの仕様として体験が先でないと情報が入らないだけだ。
Ni型:全体像を先に見せる
Ni型の新人は、3ヶ月後にはこうなれるというゴールイメージを先に見せると動き始める。
プロジェクトの全体像、チームの中での自分の役割、最終的な成果物のイメージ。これらが見えるとNi型は逆算して今何をすべきかを自分で組み立てる。逆に、目の前のタスクだけ振って全体像を見せないと、何のためにやっているか分からないまま迷子になる。
Ni型の新人に最も効果的だった指導法を一つ紹介する。入社初日にホワイトボードにチームの業務フローを描いて見せ、今日から1ヶ月はここ、3ヶ月後にはここまで、半年後にはここを自分で回せるようになるからと伝えた。このマップがあるだけで、Ni型の新人は毎日のタスクが全体のどこに位置するかを自分で紐づけてくれる。
トレーナー自身のOSを知る
教え方の問題は新人側だけにあるわけじゃない。トレーナーのOSもバイアスを生む。
Ti型トレーナーは説明しすぎる傾向がある。理由から丁寧に積み上げて教えたいから、Se型の新人にとっては永遠に終わらない講義に感じる。Te型トレーナーは効率を重視するあまり、Fe型の新人が必要としている関係性構築の時間を時間の無駄と判断してしまうことがある。
Fe型トレーナーは逆に、新人との関係性づくりに時間をかけすぎて、肝心の業務スキルの伝達が遅れることがある。仲良くなったけど仕事を覚えていない、という状態は体裁は良いけれど育成としては失敗だ。
Si型トレーナーは自分がやってきた方法を正解として教える傾向が強い。この教え方も自分が学んできた順番通りに進めようとするし、その順番を飛ばされるとストレスを感じる。Ne型の新人が質問をあちこちに飛ばすと、順番にやってとイライラする。でもNeが質問を飛ばすのは理解の仕方が線形ではなく網状だからで、これを矯正しようとすると逆効果になる。
新人育成の認知機能別設計では育成計画の全体設計について書いたけれど、この記事はもっと現場寄り──日々のOJTで明日から試せるレベルの話をしている。
認知機能別のフィードバック設計や1on1の進め方も合わせて読むと、OJT→フィードバック→1on1の一連の流れでタイプ別アプローチが一貫する。
明日からすぐ試せるのはこれだ。①初日の行動を観察してOSの仮説を立てる→②仮説に基づいて教え方を1回変えてみる→③反応が良ければ続ける、悪ければ別の仮説に切り替える。このサイクルを回すだけで、教えても伝わらない問題の7割は解消する。大げさではなく、人事の現場にいた人間としての実感だ。
OJTペアリングの設計
ここまで書いてきた内容を活かすなら、そもそもOJTのペアリングを認知機能で設計するという発想もある。
同じOSのペアが最も効率がいいかというと、必ずしもそうではない。Ti型トレーナーとTi型新人のペアは理由の共有がスムーズだけど、お互い黙って作業してしまい、教えたつもり分かったつもりの空回りが起きやすい。Fe型同士のペアは関係性が温かいけれど、業務の伝達より雑談に時間が流れがちだ。
弊社の支援先のデータでは、トレーナーのOSと新人のOSが異なるペアで、かつトレーナーが自分のOSバイアスを自覚している場合に、OJTの成功率が最も高かった。異なるOSだからこそ、教え方を意識的に切り替える必要が生まれ、結果として新人の吸収速度が上がるのだ。
逆に、最も失敗しやすいのはトレーナーが自分のOSに無自覚で、かつ新人のOSと異なるペア。教え方のズレに気づかないまま、何回言っても覚えない→あの新人は使えない、という評価が固まってしまう。新人が悪いのではなく、入口が合っていないだけなのに。
OJTの成否は、トレーナーの教え方のスキルよりも、新人のOSに合わせて入口を切り替えられるかどうかで決まる。そしてそのためには、まずトレーナー自身が自分のOSを知ることが絶対条件だ。
自分の認知機能を診断で特定しておくと、自分のOSが教え方にどんなバイアスをかけているかが見える。教え上手になるための第一歩は、自分の教え方のクセを知ることだ。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、特定の指導方法を強制するものではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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