
若手が辞めるのは現場のせい──建設業の離職を性格ミスマッチで解く
建設業の若者離職は根性がないのではなく、業界のOS(Se-Te重視文化)と若手の認知機能が噛み合っていないだけだ。
3年で4割が辞める現実
厚生労働省の雇用動向調査によれば、建設業の若手は入社3年以内に約4割が離職する。この数字は産業全体の平均を大きく上回っていて、しかも改善の兆しがほとんどない。
辞める理由として挙がるのは、長時間労働、休日の少なさ、給与への不満。いわゆる3K(きつい・汚い・危険)に加えて、人間関係と答える若手が非常に多い。
X(旧Twitter)で施工管理辞めたで検索すると、体験談がいくらでも出てくる。一年目で毎日怒鳴られて胃潰瘍になった、先輩に見て覚えろと言われたけど何を見ればいいか分からない、現場で毎日同じことの繰り返しで頭がおかしくなりそう──。別のポストでは、4大管理の名前は知ってるけど実際に教わったことは一度もない、現場に放り込まれてそのまま1年経ったという声もあった。
noteにも、新卒で施工管理に入って1年半で辞めた人間の率直な記録がある。現場では自分の仕事が全体のどこに繋がっているか教えてもらえず、ただ指示された場所に行って指示された作業を繰り返すだけだった、自分でなくてもいい仕事を毎日やることに耐えられなくなった、と。
こういう声を業界側は根性がないで片付けがちだ。でも本当にそうだろうか。24年人事をやってきた経験からすると、根性の問題ではなく認知的ミスマッチの問題であるケースがかなり多い。根性論で人を採り続けた結果が毎年4割の離職なのだとしたら、根性論のほうに問題がある。
建設業の現場文化はSe-Te型に最適化されている。目の前の物事を即座に処理し(Se)、効率的に工程を回す(Te)。この二つの認知機能が強い人間にとっては天職に近い。だが全員がSe-Te型ではない。若手の中にはNe型もFi型もNi型もいる。彼らが弾き出されているのは能力の問題ではなく、OSの不一致の問題だ。
辞める理由は性格で違う
変化のない現場で窒息する
Ne(外向的直観)が優位な若手にとっては、変化のない現場はそれだけで窒息的な環境になる。
Neは可能性を探索する機能だ。こうしたらどうなるだろう、あのやり方とこのやり方を組み合わせたらもっと良くなるんじゃないか。そういう思考が自動で回っている。
しかし建設の現場では、決められた手順を決められた通りに実行することが最優先される。特に若手のうちは自分判断で動く余地はほとんどない。安全面から見れば当然のことだし、理由はある。でも理由があるからといってNe型の窒息感が緩和されるわけじゃない。
このタイプの若手は、辞めた理由を聞くと面白くなかった、自分の頭を使える場面がなかったと答えることが多い。建設の仕事そのものが嫌だったのではなく、認知機能の出力先がなかったのだ。
Ne型が感じる窒息感は、趣味や私生活で発散できるものでもない。仕事中ずっと頭の中のエンジンが空回りしている感覚は、退勤後も引きずる。やりがいのない仕事を続けることへの罪悪感が積み重なって、ある日ぱったりと辞表を出す。周囲からは突然に見えるけど本人の中ではずっと限界だった。
理不尽な怒声が刺さる
Fi(内向的感情)が優位な若手は、建設現場に根強い怒声文化に最も脆弱だ。
Fiは自分の内面の価値基準を参照する機能で、何が正しいか、何が許せるかの判断を自分の感覚に基づいて行う。職人文化の怒鳴り指導は、Te型やSe型の若手にはあの人厳しいけどまあ仕事だしくらいで受け流せることもある。だがFi型にとっては自分の存在が否定されたという深いダメージに変換される。
笑い飛ばせばいいのにと思う人もいるだろう。でもFi型にはそれができない。感情の処理が内向的に行われるから外には見えにくいけれど、内側では怒声のひとつひとつが積み重なっている。ある日ぱたっと来なくなるタイプの離職は、Fi型に多い。事前に辞めますとも言わず、ある朝来なくなる。連絡が取れなくなる。
建設の現場管理者向けの調査でも、最近の若手は指導に弱いという声は頻繁に出るが、弱いのではなく処理の仕方が違うだけだ。指導の内容が問題なのではなく、怒声という伝達手段がFiの仕様と致命的に合わない。ここを理解しないまま怒声を続ける限り、Fi型の若手は定着しない。
ある中堅ゼネコンの現場監督がnoteに書いていた。若手が来なくなるたびに根性がないと言っていたが、3年で12人中8人に辞められて、さすがに指導法を変えた。声を下げたら離職率が半分になった──と。人が変わらないなら仕組みを変えるしかないのだ。
全体像が見えない虚無
Ni(内向的直観)が優位な若手は、自分の作業が完成形のどこに繋がっているか分からないと、強い虚無感を覚える。
Niは全体の中での位置づけやビジョンを必要とする。今やっている鉄筋の配筋作業が、最終的に建物のどの部分になり、その建物がどんな用途で使われるのか。そういう情報があるとNi型はモチベーションが湧く。でも現場では、黙ってやれ以上の説明がないことが多い。
noteの退職記録でも、全体像が見えなかったという表現が繰り返し出てくる。これは甘えでも贅沢でもなく、Niの認知機能が動くために必要な情報が環境から供給されていないということだ。エンジンにガソリンを入れずに走れと言っているのに等しい。
Ni型の若手を面談すると、この仕事で何者になれるんですかと聞かれることがある。Se-Te型の上司には意味不明な質問だろうけど、Ni型にとっては死活問題だ。5年後10年後に自分がどうなっているかのビジョンが見えないまま、ただ目の前の作業を繰り返す日々はNi型にとっては消耗そのものになる。
業界が変えるべきOS
Neには理由を教える
Ne型の若手を定着させたければ、作業手順だけでなくなぜこの手順なのかをセットで教えること。
建設業の現場マニュアルには手順は書いてあるけれど、設計意図が書いてあることはまれだ。ここにこの鉄筋が入る理由は何か、この工程の順序はなぜこうなっているのか。5分の説明を追加するだけで、Ne型の若手は自分の作業に意味を見出せる。
意味を見出せれば、次は応用を考え始める。もっと効率いいやり方あるんじゃないかと発言し始めたらNe型のエンジンが回り出した証拠だ。うるさいと黙らせず、おもしろいな一旦終わってから聞くよと受け止めるだけでいい。
実際に、改善提案制度を導入した現場ではNe型の若手の定着率が顕著に改善したケースがある。月1回、現場の改善案を提出する仕組みを作っただけ。採用されなくても提出自体が評価される。これだけでNe型の認知機能に出力先ができるから、窒息感が激減する。
Fiには怒声ではなく承認を
Fi型の若手に対しては、指導の伝達手段を怒声から成果物ベースのフィードバックに切り替えるだけで定着率が変わる。
何やってんだではなく、ここはこうした方がいい。声量を下げるだけでもいい。Fi型は指導の内容には素直に従う。問題は伝え方だけだ。
さらに有効なのが、小さな承認を言語化すること。ここの仕上げきれいだなの一言がFi型にとっては大きなエネルギー補給になる。介護士に向いてる性格の構造で書いた内容と構造は同じで、Fi型は自分の仕事が相手に認められたと感じる瞬間にドライブがかかる。
Niには全体像を見せる
Ni型の若手には、プロジェクトの完成イメージと今の作業の位置づけを最初に見せること。図面をタブレットで見せて、今やっている作業がここになるという一言を添えるだけで、Ni型のモチベーションは大きく変わる。
若手自身の生存戦略
業界の変化を待っている余裕はないから、自分でできることもある。
まずは自分の認知機能を知ること。施工管理に向いてる性格の構造で書いたように、Se-Te型であれば建設の現場は認知機能との相性が抜群にいい。でもそれ以外のタイプだからといって建設業に向いていないわけではない。
Ne型は設計部門やBIM推進のような、既存の手順に改良を加えるポジションを狙う手がある。Ni型は工程管理やプロジェクトマネジメントのように全体を俯瞰するポジションとの相性がいい。Fi型は品質管理や安全管理のように、自分の価値基準を活かして判断するポジションに向いている。現場作業だけが建設業じゃない。自分の認知機能が活きるポジションを社内で探すか、転職時にそこを軸にする。
建設業のマネージャーが辞める構造や早期離職の性格ミスマッチも合わせて読むと、自分の離職衝動がどこから来ているのか解像度が上がる。
自分の認知機能を診断で特定するのが、辞める前にやるべき最初の一歩だと思う。敵を知り己を知ればという話で、業界の文化というイメージが漠然と嫌なのか、特定の認知機能との相性の問題なのかが切り分けられれば、対策も打てる。辞めるにしても残るにしても、判断の解像度が上がる。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、特定の業界や職種を否定するものではありません。深刻な職場トラブルやメンタルの不調がある場合は、公的な相談窓口や医療機関への相談を優先してください。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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