
早期離職の本当の原因──性格ミスマッチの構造を認知機能で解剖する
入社3年以内の離職率は大卒で32.3%、高卒で37.0%(厚生労働省・令和3年3月卒)。この数字はもう何年も大きく変わっていない。離職の理由として挙がるのは人間関係、仕事内容のギャップ、労働環境──だいたいこの3つに集約される。しかしこの分類では何も解決しない。本当に必要なのは、なぜ特定の人が特定の環境で壊れるのかの構造理解だ。
退職理由と性格の不一致
リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、退職理由の建前と本音には大きな乖離がある。建前ではキャリアアップやライフイベントを挙げる人が多いが、本音では上司と合わなかった、社風が合わなかったという声が上位に来る。
上司と合わなかったを認知機能で翻訳すると、認知プロトコルの不一致だ。
Te主導(ESTj、ENTj)の上司は効率と結論を重視する。報告は結論から。数字で語れ。感情は持ち込むな──こういうTeのOSで動いている上司の下に、Fe主導(ENFj、ESFj)の部下が配属されると何が起きるか。
Fe型は場の空気を読み人間関係を調整することで仕事を進める。Te型上司のドライな指示をFe型部下は冷たさとして受信する。Te型上司から見るとFe型部下は回りくどい、感情的、結論が遅いと映る。双方に悪意はない。認知機能のプロトコルが違うだけで、会話のたびに微細な摩擦が生じる。この摩擦が3ヶ月、半年と積み重なると、Fe型部下は居場所がないと感じて退職する。
弊社の診断データで入社1年以内に退職したユーザーの上司-部下ペアを分析したところ、Te型上司×Fe型部下の組み合わせが最も多く、全体の31%を占めていた。次いでTe型上司×Fi型部下が22%。Te型の管理スタイルと感情系(Fe/Fi)の受信パターンの衝突が、早期離職の最大の構造的要因になっている。
危険なペアの構造
ソシオニクスには16タイプ間の関係性を14パターンに分類する理論がある。その中で上司-部下関係で最も危険なペアを見ると、パターンが見えてくる。
監督関係(supervision)──相手の弱点が無意識に見えてしまう関係。例えばESTj上司とINFp部下。ESTjはINFpの苦手な部分(計画性のなさ、締切意識の甘さ)が自動的に目に入る。善意で指導しているつもりが、INFp側からすると常に弱点を突かれている感覚になる。INFpは最初は頑張るけれど、半年もすると自己肯定感が底を突いて退職する。
衝突関係(conflict)──認知機能が真逆のペア。INTj上司とESFp部下。Niで長期ビジョンを重視するINTjと、Seで今この瞬間を大事にするESFpは、仕事の時間軸そのものが噛み合わない。INTjの3年後を見据えた指示がESFpには今の仕事と無関係に感じられ、ESFpのノリと勢いでやる仕事のスタイルがINTjにはいい加減に映る。
Xで見かけた若手社員の投稿が象徴的だった。上司の言ってることが毎回わからない。方向性は理解できるけど、なぜ今それをやるのか腹落ちしない。聞き返すと怒られるし、言われた通りにやると遅いと言われる。もう疲れた──と。この人のタイプは分からないが、認知プロトコルの不一致による慢性ストレスの典型例だ。
採用で防げる壁と防げない壁
採用ミスマッチの防止策を考えるとき、認知機能の観点から2種類に分けて考える必要がある。
防げるミスマッチは、職種と認知機能の不一致だ。営業職にTi主導型を配属する、経理にNe主導型を配属する──こういうミスマッチは適性検査の段階で防げる可能性がある。ただし現時点で多くの企業が使っている適性検査は、認知機能レベルの精度を持っていない。SPI等の性格検査は外向的か内向的か、協調性があるか程度の粗い分類で、Te型かFe型かという精度の分類はできない。
防げないミスマッチは、上司-部下の認知プロトコルの衝突だ。入社前の段階で将来の上司の認知タイプまで把握して配属を最適化している企業は、少なくとも日本にはほぼ存在しない。しかし入社後に設計で回避できる。
弊社の診断を導入している企業の事例では、チーム編成時に認知機能の補完関係を考慮したところ、6ヶ月後の離職率が前年比で40%減った部署があった。やったことはシンプルで、Te型マネージャーの下にFe型メンバーを集中させず、Ti型やSi型を間に挟んだだけ。Fe型とTe型の直接衝突を緩衝する中間層を設計に組み込んだ。
双対関係を配属に活かす
ソシオニクスには衝突のようなネガティブな関係もあれば、双対関係のように互いの弱点を無意識にカバーし合える最も補完性の高いペアリングもある。
人事の配属設計でこの双対関係を活用できる。ENFj(Fe-Ni)の新入社員にはISTp(Ti-Se)のメンターをつけると、Fe型新入社員が感情的に揺れたときにTi型メンターが冷静なフィードバックを返してくれる。逆もまた然りで、ISTpの新入社員にENFjのメンターをつけるとTi型新入社員がチーム内で孤立しそうなタイミングでFe型メンターが橋渡しをしてくれる。
弊社の診断を導入している製造業の人事部門では、新卒配属時にソシオニクスの関係性マトリクスを参照して上司-部下ペアを調整している。衝突関係と監督関係を避け、双対関係や活性化関係のペアリングを作る。この取り組みで新卒1年以内の離職率が28%→12%に下がったという報告がある。全ての配属を認知機能で最適化するのは非現実的だが、リスクの高いペアリングだけ回避するだけでも効果は大きい。
中途の文化ミスマッチ
中途採用の早期離職は新卒以上に深刻な場合がある。スキルマッチで入社したのに3ヶ月で辞める人の多くは、組織文化と認知機能の不一致を起こしている。
Te型の文化(効率主義、KPI管理、結果重視)の企業にFe型の中途社員が入ると、数字しか見ない組織だというカルチャーショックが起きる。逆にFe型の文化(協調性重視、根回し文化)の企業にTe型の中途社員が入ると無駄な会議が多すぎるというストレスが溜まる。
弊社の診断ユーザーで中途入社3ヶ月以内に退職した人に聞いたところ、仕事内容は想定通りだったが職場の雰囲気が合わなかったという回答が67%を占めた。雰囲気とは認知プロトコルの総和のことだ。中途採用の面接で私がよく勧めるのは入社前にチームメンバーとの短いカジュアル面談を設けること。30分の雑談で認知機能と文化のフィット感を体感できる。
入社後にできる離職防止設計
人事部門が今日からできることを3つ挙げる。
1on1の設計を相手の認知タイプに合わせること。Te型上司がFe型部下に対して成果はどうだと聞いても、Fe型部下は数字ではなく人間関係のことを話したがる。1on1をタイプ別に設計するだけで、上司-部下間の認知的すれ違いが軽減される。Te型上司がFe型部下と話すときは、最初の5分を雑談に使い、中盤で業務の話をし、最後に関係性の確認で閉じる──このフォーマットだけでFe型の心理的安全性が上がる。
メンター制度で認知タイプの近い先輩をつけること。上司は選べないが、メンターは制度設計で選べる。新入社員のストレスの多くは上司との認知的ギャップから生じるから、同じ認知タイプの先輩が翻訳者としてメンターに入るだけで、離職リスクが構造的に下がる。
3ヶ月面談で認知的な辛さを言語化する機会を設けること。ほとんどの新入社員は辞めたいと思っていても上司と合わないと言えない。しかし上司のコミュニケーションスタイルについてどう感じていますかという問い方なら、性格批判ではなくスタイルの相性の話として言語化しやすい。この言語化ができるだけで、配置転換やメンター変更という解決策に辿り着ける確率が上がる。
辞める前に切り分けること
早期離職を考えている当事者に向けて言いたいことがある。辞める前に3つだけ切り分けてほしい。
仕事の内容が合わないのか、上司が合わないのか、組織の文化が合わないのか。この3つは全部違う問題だ。上司が合わないだけなら異動で解決する可能性がある。仕事の内容が合わないなら同じ組織内での職種転換を検討できる。組織の文化が合わないなら転職が必要になる。
認知機能を軸にすると、この切り分けが驚くほどクリアになる。Te型の上司が辛いのか、Te型の文化(効率至上主義、数字で全て判断)が辛いのか。前者なら上司が変われば済む話だし、後者なら組織ごと変える必要がある。
24年間キャリア支援の現場にいて断言できるのは、早期離職の半分以上は認知プロトコルのミスマッチで発生しているということだ。性格が弱いのではない。OSの相性が悪いだけだ。自分のOSを知り、今の環境のOSを知れば、辞める前にできることはまだ残っている。
内定辞退と認知機能
早期離職の前段階として内定辞退がある。内定を出してから入社までの期間に不安を感じて辞退する学生の多くは、自分が入る組織の認知的な空気感がわからないまま意思決定を保留している。
Fe型の内定者は入社前にチームメンバーとの接点がないと不安が増幅する。懇親会やメンター面談を入社前に設計するだけでFe型の内定辞退率は有意に下がる。Ti型の内定者は研修カリキュラムや業務マニュアルの事前共有が安心材料になる。何をどう学ぶのかの構造が見えると、Ti型の不確実性ストレスが軽減される。
Ne型の内定者は入社後のキャリアの多様性──ジョブローテーションの可能性、新規事業への参画機会──を伝えることが効果的。一つの部署にずっといるのかという不安がNe型の辞退の一因になるから、フレキシブルなキャリアパスの存在を示すことが安心につながる。
退職面談で認知機能を聞く
退職面談で本当の退職理由を聞き出すのは難しい。しかし認知機能の言語を使うと、感情的にならずに本質を語ってもらえることがある。
上司のコミュニケーションスタイルについてどう感じていましたか──この質問は、上司が嫌いでしたかという質問よりも回答のハードルが低い。返ってくる答えはTeの上司が事実だけ淡々と伝えてくるのが辛かったとか、Fe型の上司が感情的すぎて疲れたとか──認知機能の言語に翻訳できる回答が得られる。こうしたフィードバックの蓄積が次の採用と配属の精度を上げる。
退職面談のデータを蓄積していくと、部署ごとの認知機能ミスマッチパターンが見えてくる。営業部はTe型上司×Fe型部下の衝突が多い、開発部はTi型同士のコミュニケーション不足が問題になっている──こういったパターンが数値化されると、次の採用で同じ失敗を繰り返さないための構造的な改善が可能になる。退職面談は終わりではなく、次の採用の始まりだ。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
あなたのタイプの「相性」を見てみませんか?
上司や部下、同僚との関係に悩んでいるなら、タイプ別の相性パターンがヒントになるかもしれません。
この記事をシェアする

この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
診断ロジックの説明を見る →


