
無理と言うエンジニアの裏側──論理と感情を繋ぐ冷徹な翻訳の術
エンジニアのそれは無理ですという一言は、あなたへの個人攻撃や拒絶ではなく仕様の解像度を上げるためのデバッグ作業に過ぎない。T型とF型のOSの違いを理解し翻訳プロトコルを挟むことで、絶望的な断絶は乗り越えられる。
新しい機能の要望を相談しにいくと、いつもエンジニアの担当者から、それはシステム上無理です、工数がかかりすぎて不可能ですと否定から入られるんです。なんだか私が個人的に責められているような気がして、最近はちょっとした質問や相談をするのすら怖くなってきまして──
ITベンチャーの若手プロジェクトマネージャーや、現場の非エンジニアの営業担当者から何百回と聞いてきた、まるで相談窓口の定型文のようなセリフです。
一方で、HRの面談の中でエンジニア側──特にバックエンドやインフラを守る方々──にじっくり話を聞くと、彼らは全く別の景色を見て困惑しています。
営業担当が要件も全く固まっていない、夢想みたいなふわっとしたアイデアを明日までに実装できる?って投げやりな感じで振ってくるんです。できない理由を技術的な観点から丁寧に説明しているだけなのになぜか冷たいとか、一緒に良いものを作ろうとする気がないって勝手に傷つかれてしまう。何が悪いのか意味がわかりません──と。
同じ日本語を話しているのに、同じ会社のフロアにいるのに、ここまで絶望的にすれ違うのはなぜか。それは双方が使っている情報処理のOSが、論理(Thinking)と倫理・感情(Feeling)という全く互換性のないフォーマットで駆動しているからです。弊社Aqshの診断データでも、エンジニア職のユーザーの実に約75%が冷徹なT型(論理型)に分類されており、非エンジニア職の約60%が共感を重視するF型(感情型)に分類されています。この偏った認知のギャップが、職場で血が流れるコミュニケーション断裂の根本原因です。
私自身、今でこそHR畑を歩いていますが、元々はシステム会社のゴリゴリの営業出身で、まさにこのエンジニア対非エンジニアの断絶の当事者として最前線で傷だらけになっていました。エンジニアの方にクライアントからの仕様変更を相談するたびにフロアの空気が完全に凍りつき、何度も会議室の裏で悔しくて泣きそうになった経験があります。だからこそ双方の言い分が痛いほど実感として分かるし、どちらが悪いという道徳的な話では決してないということも、強い確信を持って断言できます。
怒りではなく単なるデバッグ
多くの非エンジニア──特にFeやFiといった感情の機能が強いタイプの方々──が致命的に誤解している最大のポイントは、エンジニアのそれはできませんという言葉を、私個人への拒絶や人間的な怒りとして直接受け取ってしまうことです。
ソシオニクスの体系において、プログラミングやシステム構築のエンジニア職に適性が高く、実際に最も多く集まるのがTi(内向論理)やTe(外向論理)をメインの武器として使う人たちです。INTjやISTp、あるいはENTjといったタイプ。彼らのOSにとって世界の最優先事項は、目の前の人間を心地よくさせることではなく、システムが矛盾なく安全に効率的に動くことです。
あなたが、このトップページのボタンもうちょっとポップな感じで、パパッと今日中にすぐ追加できないかなと笑顔でふんわり投げかけた時。彼らの頭の中では、あなたの笑顔など一切見えておらず、そのパパッとを実現するためにデータベースの設計やテーブル構造はどうなるのか、既存のセキュリティ要件とコンフリクトしないか、APIの設計変更とテストに何時間かかるか──という膨大な思考が、ミリ秒単位で駆け巡っています。
そして要件が不明確な部分、つまり将来のバグの温床の芽を見つけると、今の段階では無理です、定義が足りませんというただの事実(Fact)を無表情に出力する。あなたの新しいアイデアを頭ごなしに馬鹿にしているわけでも、急な仕様変更に怒っているわけでもない。曖昧な要求の解像度を上げるための作業、すなわちデバッグをしているだけなのです。それに笑顔やお疲れ様ですという社会的な共感の装飾を乗せるという余分な機能が、彼らの初期OSにはインストールされていないだけのこと。
エンジニアのバーンアウト構造の記事でも触れていますが、彼らのコミュニケーションの無骨さは悪意ある脅威ではなく、不完全なシステムを守ろうとする純粋な防衛本能の表れなのです。
昔の面談で、INTjのインフラエンジニアの男性が真剣な顔で相談してきました。営業さんに表情が怖すぎる、不機嫌そうだと言われてショックを受け、翌日から意識的に笑顔を作って話しかけるようにしたんですが、逆に目が笑ってなくて気持ち悪いと陰で言われました。もうどうすればいいかわからなくなりました──と。私は不謹慎ながら胸が詰まると同時に、彼の真面目さに少し笑ってしまいそうになりました。彼は誰よりも真剣だったのです。表情を柔らかく変えられないのは性格が冷たいからではなく、OSの仕様としてリソースの配分先がそこに全くないだけなのです。
言葉を繋ぐ冷徹なプロトコル
では、この長年にわたる両者の断絶を現場でどう乗り越えるか。エンジニアにもっと愛想良く社会性を身につけてもらうという期待は、今すぐゴミ箱に捨ててください。猫に向かってワンと鳴く練習をしろと要求するのと同じくらい非生産的で残酷です。
唯一の解決策は、中間に翻訳のためのプロトコル(決まり事や手順)を冷徹に挟むことです。
まず、Why(背景)とWhat(要件)を完全に分離して提出すること。非エンジニアは非常によく、情熱や背景のドラマだけで人を動かそうとします。今回はクライアントがすごく経営的に困っていて、これを実装したら絶対に喜ぶと思うんです──これは感情型の人間には猛烈に響きますが、論理型には響かないどころか、で、感情はわかったからそのために何をいつまでにどう実装しろと?というノイズにしかなりません。悪い依頼の手本です。
依頼する時は、①なぜやるのかという背景、②何をやるのかという仕様、③いつまでという制約条件──この3つをプレーンテキストの短い文章で提示してください。熱意やドラマは一番最後におまけとして添えるだけで十分。弊社が組織コンサルで介入したある会社では、非エンジニアからエンジニアへの全ての依頼に必ずこのWhy/What/制約の3行フォーマット(テンプレート)を導入させた結果、手戻り率が約4割も減少したという明確なデータが出ています。
次に、無理です、できませんを、どうすればできるかのパズルに変換する思考法です。エンジニアから今の仕様では無理ですと言われた時、感情機能が強い人は自分という人間が拒絶されたと無意識に深く傷つき、そこで会話の防衛や反撃に入ってしまう。ここが一番の勝負所です。傷つく前に、こう切り返してください。
なるほど、今の仕様では無理な理由はわかりました。では、もしこの機能をどうしても実装するとしたら、どこから条件や仕様を変えれば可能になりそうですか?これとこれを削っても無理ですか?──と。
論理型のエンジニアは、他人の矛盾を指摘するのと同じくらい、あるいはそれ以上に、困難なパズルやシステムのエラーを解決に導くことが大好きです。無理ですという出力は、実は今の条件設定が間違っていますよというアラートに過ぎない。条件の変数を変えるから一緒にパズルを解いて解決してほしいと、味方としてスタンスを変えた瞬間。彼らは拒絶する冷たい敵から、最も頼りになる知的な相棒に一瞬で変わります。
話が通じない最高の補完者
私と仕事をしてきたある優秀なENFpの女性プロジェクトマネージャーは、飲みの席でかつて私にこう言いました。
昔はエンジニアの人たちがパソコンの裏で何を考えているのか全く分からなくて、いつも会議室で泣きそうになってビクビクしてました。でも今は、彼らの真顔の無理ですが、僕がシステムが崩壊しないように守るから、君はもっと解像度の高い具体的な要件を持ってきてという不器用な愛情表現に聞こえるんです。彼らが最後に必ず尻拭いして守ってくれるという絶対の安心感があるから、私は外に出て安心して夢みたいな大風呂敷の企画をぶち上げられるんですよ──
これこそが、機能不全と断絶を血まみれになって乗り越えた先にある、真のチームビルディングの完成形です。
話が通じる相手、つまり自分と全く同じOSを持つ人間ばかりで組んだチームは一見コミュニケーションロスがなく快適ですが、必ずどこかで致命的な死角を見落とします。
異なるOS同士の手触りは、常にザラザラしていて不快です。でもその不快な摩擦の熱からしか、本当に新しいものは生まれない。
面談をしていていつも面白いなと思うのは、長く安定して続いているIT企業のプロジェクトチームや経営層には、必ずと言っていいほど本人たちは気づいていないが認知機能の深い補完関係が成立しているケースが多いということです。企画力はあるがすぐ飽きるENFpのマネージャーと、決して笑わないが確実にコードを仕上げるISTpのエンジニアが、犬猿の仲に見えて実は最強の双対関係の相性だったというのは、業界ではよくある珍しくない話なのです。上司と部下の相性の問題も、感情論ではなくこの認知機能の構造で全て説明がつきます。
明日、また気難しい顔をしたあのエンジニアのデスクに仕事の依頼で行く時。この人は冷たいという偏見のレンズを外し、私には見えないシステムのリスクを命がけで見張ってくれている不器用な番人なのだと思い直してみてください。そのほんの少しのあなたの認知のシフトが、あなたのチームの凍りついた空気を劇的に変えるはずです。
※本記事は性格理論を用いた認知のフレームワークであり、個人の能力や人格を完全に決定づけるものではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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