
元気で素直な人が辞める──曖昧な採用基準を認知OSで言語化する
元気で素直で主体性のある人──を採用基準にしている限り、ミスマッチは減らない。認知OSで翻訳すれば基準は一気に明確になる。
3割が辞める構造の正体
大卒の3年以内離職率はずっと約3割で推移している。この数字を前に最近の若者はと嘆く人がまだいるが、同じ数字が20年以上続いているのだから、世代の問題ではなく構造の問題だろう。
採用基準があいまいなまま面接を繰り返し、面接官の好みでフィーリング採用をしていたら、ミスマッチが起こるのは当然のこと。むしろ3割で済んでいるのが不思議なくらいだ。
ある人事担当者の方から聞いた話が象徴的だった。うちの採用基準は元気で素直で主体性のある人ですと。で、面接官5人にそれぞれ定義を聞くと、見事にバラバラだった。ある人は声が大きくてハキハキした学生を元気と判断し、別の人は静かでも目の奥に熱があれば元気だと判断していた。
素直についてはもっとひどくて、Aさんは言われたことを素直にやる人、Bさんは疑問を素直にぶつけてくる人──完全に真逆の解釈だ。これで同じ基準のつもりで面接している。どちらの解釈が正しいかではなく、基準として機能していないのが問題。
弊社の診断データでは、こうした曖昧な基準で採用された人の約4割が入社1年以内に思っていたのと違ったと感じていた。基準が曖昧だから期待値のすり合わせができない。結果としてリアリティショックが起き、3年以内に離職する。24年間の人事コンサル経験では、まずここの言語化から始めないと何をやっても効果が薄い。
曖昧ワードを認知OSで分解
採用基準でよく使われる曖昧な形容詞を、認知機能の言語に翻訳してみよう。ここが分かると、自社が本当に何を求めているのかが初めて見えてくる。
元気のOSコード
元気な人がほしいと言うとき、組織が求めているのは大きく2つのOSに分かれる。
Se型の元気さは、行動力・瞬発力・エネルギッシュさ。声が大きくて動きが速い。朝礼でハキハキ挨拶して、フットワーク軽く動き回る体育会系タイプだ。
Fe型の元気さは、社交性・場の盛り上げ力・人を巻き込む力。コミュニケーションが活発で、チームの雰囲気を明るくする。飲み会の幹事をやらせたら天才的なタイプ。
どちらも面接では元気に見えるが、ストレス環境での挙動はまったく違う。Se型は環境が変わってもエネルギーが持続するが、ルーティン業務には弱い。Fe型は人間関係がこじれると一気に萎む。自社はどちらの元気さを必要としているのかを言語化しないと、見た目は元気な人が入社半年で消耗しきるということが起こる。
素直のOSコード
素直さにも複数の認知パターンがある。
Fe型の素直さは相手に合わせる柔軟さ。指示を受け入れてスムーズに動く。上司からの評価は高いが、自分の意見を言えないまま潰れるリスクがある。
Si型の素直さは前例やルールに忠実に従う生真面目さ。教えられたことを正確に再現する能力が高い。マニュアル通りに動く安心感がある反面、イレギュラーへの対応は苦手。
一方でTi型は素直じゃないと言われがちだが、これは反抗しているのではなく、なぜそうなるのかを論理的に理解してから動きたいだけだ。Ti型を素直じゃないという理由で落とすと、思考力の高い人材を取りこぼすことになる。これは採用側の損失であって、Ti型の欠点ではない。
主体性のOSコード
主体性も定義次第で指す人物像がまるで違う。
Te型の主体性は即断実行。自分で判断して動く力。上司の指示を待たずにアクションを起こすタイプで、営業やプロジェクトマネジメントで重宝される。
Ne型の主体性はアイデア発信力。新しいことを提案する力。これやったら面白くないかと提案を連打するタイプで、イノベーション系の文化で光る。
Ni型は長期的な戦略思考を持っているが、すぐには動かないから受動的に見えてしまう。でもNi型が水面下で設計した戦略が、半年後にチーム全体を動かすことも少なくない。主体性を短期的な行動量で測ると、Ni型のポテンシャルを見落とす。
認知OSで基準を言語化する
曖昧ワードを分解したら、次は自社の基準をOSコードに翻訳する作業だ。
変換テンプレートの使い方
やり方は3ステップ。まず自社で活躍しているハイパフォーマーの認知タイプを特定する。次に彼らに共通する認知機能のトップ3を抽出する。最後にそのトップ3を採用基準の言語に落とし込む。
たとえば自社のハイパフォーマーにTe型とSe型が多いなら、採用基準はこう書き換わる。即断実行ができる。マルチタスクで現場対応ができる。数値で成果を語れる──これならどの面接官が読んでも同じ人物像をイメージできる。元気で素直な人よりも100倍使える採用基準になる。
逆にハイパフォーマーにNi型とTi型が多い組織なら、基準は構造的に物事を考えられる、不確実性の高い状況で仮説を立てられるになる。元気さや素直さでは拾えない人材が採れるようになる。
評価シートへの反映
面接の評価シートに、認知OS適合度の評価軸を1つ追加する。5段階評価で、この候補者の認知スタイルは配属先チームの認知プロトコルとどの程度一致しているかを判定する欄を設ける。感覚的な合う/合わないではなく、OS的に構造化した判定になるだけで、面接官間のバラつきが大幅に減る。
採用ミスマッチの防止法と面接質問の設計法を組み合わせれば、構造化面接の中にOS判定を自然に組み込める。
うまくいく組織の共通点
曖昧基準→OS翻訳→離職率改善の流れがうまくいく組織にはひとつ共通点がある。採用基準の言語化を面接官全員で合意するプロセスを踏んでいることだ。
人事部だけで決めた基準は現場に浸透しない。現場マネージャーと一緒にうちのチームに必要なOSは何かを議論することで、初めて基準が生きたものになる。コーチングのOS別アプローチのフレームワークを使えば、この議論のファシリテーションもやりやすい。
自社で認知スタイルの相性パターンを確認して、チーム内に何が足りないのかを可視化してから採用基準を設計するのが理想のフローだ。足りないOSが分かれば、まさにそのOSタイプの候補者を意識的に評価に組み込める。
失敗するパターンの共通項
OS翻訳がうまくいかないケースにも共通項がある。失敗例から学んでおいたほうが早い。
現場不在で設計してしまう
人事部だけで基準を作ってしまうケース。人事は全社最適を考えるから抽象度が上がりがちで、バランスの取れた人材みたいな曖昧基準に収束しがち。現場マネージャーの言語でうちのチームには何が足りないかを拾わないと使えない基準になる。
ある企業で実際にあった例だが、人事部がOS翻訳した採用基準をキレイなスライドにして現場に配布したら、現場からの反応は「で、結局どういう人を採ればいいの」だった。言語レベルが現場と合っていなかった。基準を作るプロセスに現場を巻き込まないと、どんなに精緻な翻訳もペーパーワークで終わる。
OS偏重で他を無視する
OS適合度だけに偏って、スキルや経験、本人の意向を無視してしまうケース。認知OSは重要なレイヤーだが、3レイヤーのひとつに過ぎない。OSだけで採用を決めると、それはそれで別の偏りが生まれる。
バランスの問題だ。SPIで能力を見て、面接でスキルと意欲を見て、OSで環境適合度を見る。3つの掛け算で判断するのが正しい使い方であって、OSだけで全部決めようとするのは過剰依存にあたる。どれかひとつだけで完璧な採用判断ができるツールはこの世に存在しない。
基準を固定して放置する
一度作った基準を何年も更新しないケース。組織は変化する。半年前はTe型文化だった部門が、マネージャーの交代でFe型文化に変わることもある。基準は半年ごとに見直すのがベター。組織が変わるのに基準が変わらなければ、また別のミスマッチが生まれる。
24年のコンサル経験で言えるのは、採用基準は生き物だということ。一度定義して終わりではなく、定期的にチューニングし続ける組織だけが採用精度を維持できる。これは認知OS基準に限った話ではなく、あらゆる採用基準に当てはまる原則だ。定義して放置している基準は、もう基準ではなく飾りだ。飾りで採用している以上、結果がランダムになるのは当然のこと。
元気で素直で主体性のある人──この基準を使い続ける限り、面接官の主観で採用は回り続ける。一度OS言語に翻訳してみてほしい。翻訳した瞬間に、なぜ今まで3割が辞めていたのかが見えてくるはずだ。見えたら次のアクションは明確。基準を書き換えるだけでいい。書き換えた基準で最初の1人を採用した瞬間、3割離職の構造に変化が起き始める。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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