
職人に指示が通らない──認知機能で変える現場コミュニケーション術
ベテラン職人に指示が通らないのは、監督の力不足ではなくOSの言語が違うからだ。翻訳のコツを掴めば、関係が変わる。
指示が通らない本当の理由
現場に出たばかりの若手監督がぶつかる壁のひとつが、職人に指示を出しても動いてもらえない問題だ。ナメられてるんだと思い込んで力で押そうとすると、余計にこじれる。建設業の先輩に聞いても怒鳴ればいいとか場数を踏めとか根性論が返ってくることが多いんだが、構造を見るともうちょっと違う話になる。
note.comに上がっていた若手監督の体験記にこうあった。同じことを先輩が言うと通るのに自分が言うと反発される。言ってる中身は同じなのに──と。これは経験の差でもカリスマの差でもなく、認知機能のプロトコルの差であることが多い。
職人は長年の経験と技術に誇りを持って現場に立っている。彼らの多くはSe型(今この瞬間を五感で捉えて動く)やSi型(蓄積した経験に基づいて判断する)の認知プロトコルで動いている。一方、若手監督が大学や研修で叩き込まれた管理手法はTe型(論理と効率で判断する)やNi型(全体構想から逆算する)のプロトコルだ。
プロトコルが合っていない状態で指示を出すと、指示の中身は正しくても伝わらない。英語しか話せない人に日本語で命令しているようなもの。正しいことを言っているのは事実だが、届かない。
弊社の診断データでも、建設業従事者のSe/Si型の割合は約65%で、Te/Ni型の監督と認知プロトコルが一致しないケースが頻繁に起こっている。これは個人の力量の問題ではなくて、構造的な不一致だ。だからこそ構造で解決できる。
監督と職人のOS衝突構造
よく現場で起きる衝突パターンを3つ紹介する。自分がどの組み合わせに当てはまるか、考えながら読んでほしい。ここを自覚するだけで、かなり変わる場合がある。
Te監督×Se職人の直球戦
Te型の監督は論理的に正しいことを端的に伝えるのが得意だ。Se型の職人もテンポの速いコミュニケーションを好むから、実はこの組み合わせは相性が悪くない。会話のスピード感が合う。結論ファーストのやり取りでお互い心地よいことが多い。
ただし落とし穴がある。Te型は理由の説明を省略しがちだ。なぜこの順序で施工するのか、なぜこの材料を使うのかの背景を言わずに結論だけ伝えると、Se型職人は言われたとおりにやればいいのかという不信感を持つ。Se型は腑に落ちれば動くが、理由なしに従うのは好まない。職人の世界では、理屈が通らないことには従わないのが普通だ。
Se型は五感で理解する人たちだから、理屈よりも実物のほうが通る。図面を広げて説明するより、現場で実物を見せながら話す。ここにこのサイズが入るから、この順序じゃないと物理的に無理──と実物ベースで説明すれば、Se型は一発で理解する。抽象論は禁止。具体と実物で勝負すること。
Fe監督×Se職人の空回り
Fe型の監督は周囲の空気を読みながら調和的にコミュニケーションを取る。丁寧だし、気遣いもできる。でも建設現場ではそれが裏目に出ることがある。Fe型の気遣いが曖昧さに変わる瞬間があって、そこで信頼を失う。
Fe型の典型的なミスは、指示のボカし方。お忙しいところ恐縮ですが、もしお手すきでしたらこの作業を先にやっていただけるとありがたいのですが──みたいな回りくどさ。Se型職人からするとで、やるの?やらないの?としか思えない。
知恵袋にも施工管理で指示の出し方がわからないという質問がよく出る。回答の大半が結論としてははっきり言えに集約されている。Fe型の監督がSe型職人に伝えるときは、丁寧さより明確さを優先すべき。この作業を14時までにお願いします──これで十分。短く、具体的に、期限をつけて。敬語は使っていいが、曖昧なニュアンスは排除する。
最初は冷たく感じるかもしれないが、Se型職人は明確な指示を出す監督のほうがむしろ信頼する。何を求められているかがクリアなほうが気持ちよく動ける。
Ni監督×Si職人の衝突
Ni型の監督はプロジェクト全体を俯瞰して構想する。この工程をこう変えれば全体の工期が3日短縮できるという提案をするのは得意だが、Si型の職人にとっては受け入れにくいことがある。
Si型は過去の成功体験を大切にする。前回はこのやり方でうまくいった、ずっとこの方法でやってきたという経験値が判断の軸だ。ここにNi型がもっと効率的な方法があると構想を語ると、Si型は自分のやり方を否定されたと感じてしまう。
この衝突は善悪ではなく時間軸の違いだ。Ni型は未来から逆算して今何をすべきかを考え、Si型は過去の蓄積から今のベストを導く。どちらも合理的なのだが、視点の時間軸が逆だから噛み合わない。現場監督に向いてる性格でも書いたが、監督に求められるのは自分のやり方を押し通す力ではなく、相手のOSに合わせて翻訳する力だ。
OS別の伝え方プロトコル
衝突構造がわかったら、次は具体的にどう伝えれば通るかの設計に入る。OS別に最適な伝達方式がある。
Se型職人への指示の原則
Se型は五感で情報を処理する。だから抽象的な説明は通らない。以下の原則を守ればかなり反応が変わってくる。
まず実物を見せる。現場で指さしながら話す。図面よりも現物。CADの画面より実際の施工箇所。理由は端的に。この順序のほうが足場のかけ直しが不要になるから──程度の一言でいい。長い理由説明は要らない。
そして職人の作業を見てフィードバックする。Se型は見てもらえている、認められていると感じると承認欲求が満たされる。作業を見もしないで指示だけ出す監督には、Se型は心を開かない。コミュニケーション改善の基本でも触れたポイントだが、建設現場では特に重要だ。
Si型職人との合意の作り方
Si型との合意形成で最も効果的なのは、過去の実績を尊重してから提案する方法だ。
○○さんがいつもやっている方法が一番安定しているのは分かっています。それを活かした上で、ここだけ変えてみたいのですが──この一言が入るだけで、Si型の抵抗感は大幅に下がる。Si型が怒るのは経験を否定されたと感じたときだ。経験を尊重された上での提案なら、受け入れやすくなる。
逆にもっと効率的にやりましょうは地雷。Si型にとって今のやり方は非合理なのではなく、実績がある選択なのだから。効率的にとは過去を否定しているように聞こえる。
監督自身のOS自覚が鍵
一番大事なのは自分のOSを知ること。自分がTe型なのかFe型なのかNi型なのかを自覚するだけで、なぜあの職人に指示が通らなかったのかのパターンが見えてくる。
ある現場監督の方が診断後に言っていた。自分がNi型だと分かってから、Si型のベテラン職人との関係が劇的に良くなった。最初に相手の経験を立てるだけで全然違ったと。10年のキャリアでずっと悩んでたのにOSを知ってから1週間で変わった──いくらなんでも盛りすぎではと思ったけど、本人は大真面目だった。
チーム全体で活用する方法
個人の気づきだけでなく、現場チーム全体でOSを共有すると効果が増幅する。
建設業のある現場では、朝礼の後にチームメンバーの認知タイプの一覧を掲示板に貼り出したところ、コミュニケーション不全が目に見えて減ったという事例がある。具体的には、Se型の職人にはメモではなく口頭で指示を出すようにした、Si型の職人には作業手順の変更を前日に事前通告するようにした、という程度のことだ。大層なことはしていない。
ポイントは、全員が全員のOSを知っている状態を作ること。あの人はSi型だから急な変更は前日に言おうとか、あの人はSe型だから口頭で言おうと各自が勝手に調整し始める。管理者が全部仕切る必要はない。認知マップが共有されていれば、自然にプロトコル調整が起こる。
チームビルディング設計でも書いたが、認知マップの共有は最もコスパの良いチーム施策のひとつだ。導入コストはほぼゼロで、効果は長期持続する。特に建設業のように人の入れ替わりが多い現場では、新メンバーが入るたびに認知タイプを共有するだけで、チームへの馴染みが格段に早くなる。
エンジニアのコミュ改善法でも書いたが、コミュニケーション改善の本質は相手を変えることではなく、自分の送信プロトコルを相手の受信プロトコルに合わせること。建設現場でもIT企業でも、この構造は同じ。現場監督の適性診断で自分のOSタイプを確認してみてほしい。
指示が通らないのはあなたの問題ではなくプロトコルの問題。そこに気づくところから全てが変わり始める。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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