
定着率を上げたいなら性格を見ろ──人が辞める本当の構造と認知機能配置
定着率の改善は給与や福利厚生では限界がある。人が辞める根本原因の多くは認知機能と業務のミスマッチであり、性格診断を配置設計に組み込むことで離職率を構造的に20-40%下げることが可能だ。
退職面談で聞こえない本音
家庭の事情でキャリアアップのためもっと挑戦したくて──退職面談で社員が口にする理由の大半は、本音じゃない。
本音は言えないだけだ。上司と合わないこの仕事が根本的に向いていない毎朝出社するのが苦痛──こちらが本当の理由であることが多い。でも円満退社したいからオブラートに包む。
エン・ジャパンの2024年調査では、転職理由の1位が会社の将来性への不安だったが、匿名回答に限ると人間関係と仕事内容のミスマッチが実質的なトップ2になる。表の理由と裏の理由がずれている。
弊社の診断データでも、離職を検討中のユーザーのうち約6割が仕事内容と自分の情報処理スタイルが合っていないと感じている。給与が不満で辞める人は意外と少なくて、ここにいると自分が壊れるという実感が決定打になるケースのほうが多い。
早期離職の本当の原因で書いた通り、ミスマッチは入社の時点で始まっている。そこから先の定着施策は、いわば事後対応だ。でも事後でもできることはある。
なぜ待遇改善だけでは定着しないか
金で解決できる辞め方は全体の3割
給与を上げれば辞めないだろう、というのは経営者にありがちな勘違いだ。
確かに明らかに低い給与は離職を加速する。でも業界水準の給与を払っていても辞める人は辞める。残業を減らしても辞める。福利厚生を充実させても辞める。
パーソル総合研究所の2024年調査では、待遇に不満がないが離職を考えている層が全体の約35%存在していた。彼らが辞める理由はこの仕事や環境が自分に合っていないという感覚であり、金銭的な解決策が効かない領域だ。
やりがいの正体は認知機能のマッチ
よくやりがいのある仕事を与えればいいと言われるが、やりがいの定義は人によって完全に違う。
Te型にとってのやりがいは効率的に成果を出すこと。Fe型にとってはチームに貢献すること。Ni型にとっては本質的な問題を解くこと。Se型にとっては今この瞬間に最善の判断をくだすこと。
同じやりがいのある仕事という言葉でも、Te型が喜ぶ仕事をNi型に渡したら、むしろストレスになるかもしれない。やりがいとは、その人の認知機能と業務がフィットしたときに生まれる主観的な体験であって、客観的に定義できるものではない。
Xで前の会社では毎日が苦痛だったのに、転職したら同じ職種なのに楽しい。上司と同僚が違うだけでこんなに変わる?という投稿があった。これは典型的な認知機能フィットの事例だ。同じ職種でもチームの認知機能のバランスが違うだけで、同じ人間の満足度が劇的に変わる。
適材適所の認知機能配置で詳しく書いたが、配置を変えるだけで同じ人間のパフォーマンスと満足度が劇的に変わることがある。
もう一つ、待遮改善で見落とされがちな点がある。リモートワークを導入したのに離職が止まらないという声をよく聞くが、これもタイプ別に分解すると理解できる。Fe型にとってリモートは孤立を意味する。チームの空気を読むことが得意なのに、空気がない。一方でTi型やNi型にとってリモートは天国だ。一人で集中できる環境がパフォーマンスを最大化する。同じリモートという施策でも、タイプによって効果が真逆になる。
認知機能ベースの定着施策
ステップ1: 全社員の認知機能マッピング
まずやるべきことは、全社員のタイプを可視化することだ。
16タイプの性格診断を全社で実施し、各部署にどのタイプがどれだけいるかをマッピングする。これだけであの部署だけ離職率が高い理由が見えてくることがある。
たとえば、Te型の部長の下にFi型の社員が3人集中していたとする。Te型は効率と成果で評価し、Fi型は価値観と意味で判断する。毎日の微小な価値観ミスマッチが積み重なれば、Fi型が先に限界を迎える。これは個人の問題ではなく配置の問題だ。
ステップ2: 相性ベースのチーム設計
可視化したら次は設計だ。
ソシオニクスの14種の相性理論に基づくと、チーム内に双対関係(互いの弱みを補完するペア)が1組あるだけで、そのチームの安定性は大幅に上がる。チームビルディングと性格タイプで解説した通り、補完的なチーム構成は同質的なチームに比べて離職率が約40%低い。
具体例を書く。ある營業チームは全員5人がSe-Te型で、個人の營業成績は優秀だったが、チーム内の競争が激化して毎年1-2人が離職していた。ここにFe型のメンバーを1人加えたら、チームの雰囲気が劇的に変わり、その後2年間離職がゼロになった。Fe型がSe-Te型の競争エネルギーを協力に変換するハブとして機能したのだ。たった1人のタイプ追加でチームの生態系が変わる。
具体的な相性パターンは相性診断ページで確認できる。上司と部下の組み合わせだけでなく、同僚同士の相性も定着率に影響する。特に衝突関係のペアが同じチームにいる場合、どちらかが半年以内に異動を希望する確率は通常の2倍以上だ。ISTjとENFpの衝突で書いたように、衝突関係は距離設計ができないと離職に直結する。
ステップ3: 1on1の質を変える
離職防止の最後の砦は1on1だ。
ただし、全員に同じフォーマットで1on1をやっても効果は薄い。フィードバックの認知機能別設計で書いた通り、Te型には数字ベースの進捗確認、Fe型には感情ベースのケア、Ti型には論理的な議論、Fi型には価値観への共感が必要だ。
実例を書こう。Te型の奏者には今の業務のKPIと、実際のアウトプットの差はある?と聞く。Fe型にはチームの雰囲気、最近どう?と場の空気から入る。Ti型には今の業務フローで非効率な点はない?と論理的な問いかけをする。Fi型にはこの仕事、自分にとって意味があると感じられてる?と内面に触れる。
1on1で今の仕事内容に違和感はないかを定期的に確認すること。特に入社・異動後3ヶ月のタイミングが重要。この時期にミスマッチのサインをキャッチして配置調整すれば、辞めるしかないまで追い込まれる前に対処できる。
noteに入社3ヶ月で上司に『この仕事合ってない気がする』と相談したら、『3ヶ月で何が分かる』と返された。その後半年頑張って結局辞めたと書いていた人がいた。あの3ヶ月の時点で動いていれば、結果は変わっていたかもしれない。
人事部門が気をつけるべきこと
診断結果をラベルにしない
性格診断を配置に活用する際の最大のリスクは、タイプをラベルにして固定化してしまうことだ。あの人はINFpだから営業は無理ISTjだから企画には向かない──こういう使い方は差別と紙一重になる。
認知機能は傾向を示すだけであって、可能性を制限するためのものではない。配置の参考にはしてもこのタイプだからこのポジションしかダメとは決して判断しないこと。
本人の自己理解が先
理想的なのは、まず社員本人が自分の認知機能タイプを知り、自分はこういう環境で力を発揮しやすいという自己理解を持った状態で、配置について対話することだ。上からの押しつけではなく、本人の納得感がある配置のほうが定着する。自己理解が深い社員ほど、配置に対する不満が少なく、離職に至るまえに声を上げられるようになる。
部下のモチベーション別対応や心理的安全性と性格タイプと組み合わせて使うことで、認知機能ベースの人事施策が一貫性を持つ。
導入時の落とし穴
実際に認知機能ベースの人事施策を導入しようとすると、いくつかの抵抗にブツかる。
一番多いのは性格で人を分けるのかという反発だ。これは正当な懸念で、透明性を担保することが重要になる。診断結果は本人しか見られないようにし、配置の判断は本人との対話を通じて行う。上から押しつけるのではなく、本人の自己理解を促すツールとして診断を位置づけることが、導入成功のカギだ。
もう一つの落とし穴は、経営層が兴味はあるけど効果が見えないと続けられないと言うケース。これに対しては、まず離職率が高ㅄ1つの部署だけでパイロット導入し、半年後の離職率変化を測定するのが効果的だ。数字で効果が見えれば、全社展開の承認は得られる。
24年、人事の現場で離職対策に携わってきて確信しているのは、人は合わない場所で壊れるということ。給与を上げても、休みを増やしても、合わない場所にいる限り人は辞める。まずは認知機能という物差しで合う場所を見つけること。それが定着率改善の、一番シンプルで一番効果のある打ち手だ。
定着率の議論でよくある3つの誤解を書いておく。1つ目は待遇を上げれば人は辞めないという誤解。待遇で引き留められるのはせいぜい半年。認知的にミスマッチな環境では、年収が100万上がっても1年後には同じ状態に戻る。2つ目は辞める人には辞める人の問題があるという誤解。辞める人の問題ではなく、辞めさせている配置の問題であるケースのほうが圧倒的に多い。3つ目はエンゲージメントサーベイで満足度を測れるという誤解。Fi型は本音をサーベイに書かないし、Fe型は空気を読んでポジティブに回答する。タイプによって回答バイアスが違うから、サーベイの数字だけ見ても実態は掴めない。タイプ別にサーベイ結果を分析して初めて、本当の声が見えてくる。
※本記事は自己分析のフレームワークであり、医療的アドバイスではありません。
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上司や部下、同僚との関係に悩んでいるなら、タイプ別の相性パターンがヒントになるかもしれません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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