
カルチャー重視の採用防衛術──性格タイプで組織ミスマッチを防ぐ
採用ミスマッチによる入社直後の早期離職の多くは単なるスキル不一致ではなく、組織と個人の認知OS(性格タイプ)の致命的な不整合が原因である。面接で見るべきはきらびやかな強みではなく、候補者が絶対に直視できない死角だ。
事前の経歴シートもポートフォリオも完璧で、最終面接の受け答えも非の打ち所がないほど素晴らしい若手だったんですが、入社してわずか3ヶ月で社内の空気が合わないと言って突然退職届を出して辞めてしまいました──
ある中堅IT企業の人事部長から、深いため息と諦めの入り混じった声で受けた相談です。24年間、HRの最前線で企業と求職者の数え切れないマッチングを見続けてきた私にとって、これは最もデジャヴを感じる、胃が痛くなるような光景の一つでもあります。企業は目の前の課題を解決できる優秀なスキルを持つ人材を血眼になって探し、求職者は自分のスキルを最も高く買ってくれる会社を必死に探す。このスキル(What)のマッチングにおいて両者は完璧に合意して内定を出したはずなのに、なぜ入社後にこれほどあっけなく、時には恨みすら残して関係は破綻してしまうのでしょうか。
弊社Aqshの企業向け組織診断の導入事例データでは、入社後6ヶ月以内に早期離職した社員の実に約8割が、直属の上司または組織全体の文化との認知スタイルの不一致を主因(裏の退職理由)に挙げています。能力が足りなかったのではなく、どのように働くか(How)──つまり組織と個人の認知OSの致命的なエラーを、面接の段階で完全に都合よく見落としていた。ほぼ間違いなくそれが根本的な原因です。
正直に言えば、私自身もHRの駆け出しの頃は、スキルと経歴が完璧にマッチしていれば現場に入れても絶対に大丈夫と信じ込んでいた一人でした。その美しい幻想が木端微塵に砕け散ったのは、自分が自信満々で採用したNe(外向直観)優位の天才肌のプランナーが、マニュアルとルーティン業務がメインの保守的な部署に配属されて、わずか2ヶ月で心が死んだように音信不通になり退職した時です。あれを経験して以来、企業における採用とは何かについての私の考え方は根本から覆りました。
スキルはOS上で駆動する
何十万円もする優れた最新のソフトウェア(スキル)を買ってきたのに、自社の古いパソコンにインストールしようとしたら環境が合わずに全く動かない──これが採用ミスマッチで起きている事象の最も正確な例えです。どんなに素晴らしい高度なプログラミングスキルや、誰もが欲しがるトップクラスの営業手腕を持っていても、それが駆動するための絶対的な土台であるOS(組織文化と個人の認知のクセ)が合致していなければ、能力は1ミリたりとも発揮されません。
先ほどの人事部長が採用し、3ヶ月で辞めてしまった若手のケースを解剖してみましょう。
その会社は創業社長のトップダウン気質が非常に強く、朝令暮改は当たり前の日常。とりあえず走りながら考え、後から数値を気合いで合わせていく外向感覚(Se)と外向論理(Te)で駆動する、極めて野武士的でアグレッシブなOSの会社でした。ESTpやENTjが多く活躍し、結果を出せばプロセスは問われない社風でした。
一方、辞めてしまった若手は非常に論理的で優秀ですが、行動を起こす前にシステムの全体像を確実に理解し、ルールや仕様を明確に定義して、予測可能性を何よりも重んじる内向論理(Ti)と内向感覚(Si)を強く持つタイプ。ソシオニクスでいうISTjやINTjの気質でした。
とりあえずやってみて現場で修正してと荒っぽく指示する上司(Se)に対し、そのとりあえずの要件定義と、失敗した時の責任の所在が明確でないと動きようがありませんと理詰めで立ち止まる彼(Ti)。退職時のヒアリングで話を聞くと、上司はあいつは頭はいいが行動力とガッツが全くないと評価を完全に下げており、若手の方はこの会社は何も考えていない無計画なブラック企業だと怒りに震えて見切りをつけていました。辞めるその最後の日まで、双方ともなぜ相手にはこんな簡単な常識が伝わらないのかと本気で思っていたのです。
これがカルチャー(OS)の不一致による離職の最も典型的な構造です。弊社のデータでも、TeやSe優位の行動先行型の組織にTiやSi優位の思考・予測先行型の人材を配置したケースの早期離職率は、配置後1年以内で約6割という絶望的な数字にのぼります。
逆に、厳格な公務員のようなSi優位の組織に、次々とアイデアを出して落ち着きのないNe優位(ENTpなど)の人材を入れた場合も、全く別の形のエラーを引き起こし、本人が退屈と同調圧力に耐えきれずに窒息死するように去っていきます。採用ミスマッチを防ぐ具体的な方法でもこれらの類似ケースを数値とともに解説していますが、この悲劇は至る所で毎日起きています。
優秀という仮面を剥がす技術
問題は、面接というたった1時間の場においては誰もが──特に優秀で適応力の高い候補者ほど──企業が求めているOSの仮面を完璧に被ることができるという点です。
臨機応変に柔軟に対応できます、チームワークを最も大切にします、御社のスピード感に惹かれました──これらは現代の採用面接における、ただの模範解答の呪文です。この訓練された表面的な言葉だけを信じて採用のハンコを押すのは、ネットの匿名掲示板の書き込みをノーガードで信じ込むのと同じくらい経営にとって危険な行為です。
その人材が本当に自社のOSに合致しているかを冷徹に見極めるためには、候補者の光り輝く強みではなく、彼らが人生で強いストレスを感じるポイント、つまり認知機能の死角をあぶり出す必要があります。
私が企業の面接官や人事担当者に最も強くアドバイスして使ってもらっている、死角を浮き彫りにするための質問のフレームワークがあります。
前職、あるいは学生時代などで、あなたが人生で最も理不尽だと感じ、腹の底から怒りや徒労感を覚えたエピソードを一つ教えてください──
この少し意地悪な質問への回答には、その人がどの認知機能で世界を切り取り、何を許容できないと感じるかが残酷なほど如実に表れます。回答がその人のOSそのものなのです。
ルールが曖昧で上司の気分で評価基準がコロコロ変わったこと、と答えた場合。彼らは予測可能性(Si/Ti)を何よりも重んじるタイプです。ベンチャー的でカオスな環境ならいくらスキルが優秀でも絶対に採用してはいけません。半年持たずに焼き切れてメンタルを病みます。
チームが仲良しクラブになっていて目標達成への執着が低かったこと、と答えた場合。完全なる効率と成果(Te)を重んじるタイプです。和や合意プロセスを重んじる文化(Fe)の部署ならば、間違いなく社内で猛烈な軋轢とクラッシュを生む要因になります。
自分のアイデアが前例がないというだけの理由で頭ごなしに一蹴されたこと、と答えた場合。可能性(Ne/Ni)を愛するタイプです。絶対にミスを許さずマニュアル化された確実な運用(Si)を求める保守的な組織なら、彼の才能は窒息し、ミスを連発して自信を失います。
もう一つ私がよく使うクリティカルな質問があります。あなたがこれまで会社に出社したくない、辞めたいと思った日の朝、その衝動の直接のトリガーになった出来事は何でしたか──これはさらに踏み込んだ死角あぶり出しの質問で、回答が具体的で生々しければ生々しいほど、候補者が絶対に受け入れられないOSのバグが浮かび上がってきます。
多様性という都合のいい罠
組織には自分たちと全く違うタイプの異質な人間も絶対に必要なのでは、それが現代の多様性(ダイバーシティ)というものでしょう──私のこんなアドバイスに対して、そう反論してくる経営者も少なくありません。
それは半分正解で、半分致命的な間違いです。
確かに最強のチームビルディング術でも書いたように組織の弱点を補うためには異質なOSを入れることが長期的な成長には不可欠です。しかし、それはすでに組織内に強固な心理的安全性があり、自分への異議申し立てを受け入れる土壌ができているという、非常に高度で成熟したマネジメント能力を持った一部の組織でのみ成立する魔法なのです。
多くの中小・中堅企業や部署において、中途採用における最優先事項は異物を取り入れて化学反応を起こすことではなく、自分の組織のOSに致命的なエラーを出してシステム全体を破壊するバグを事前に防ぐことです。
あなたがいま採用しようとしているポジションの直属の上司は、自分とは全く異なる認知機能を自分への否定や反抗と受け取らずに、客観的なリソースとして活用できる度量を持っていますか。もし少しでもノーなら、迷わずその上司と同じ、または補完しやすいOSを最初から備えている人間を採用するべきです。なぜなら、足りないスキルは入社してからいくらでも研修で教えられますが、物事の捉え方であるOSは一生書き換わることはないからです。
1on1のやり方をタイプ別に深く掘り下げた記事も採用後のオンボーディング設計に大いに役立ちます。採用して入社させるのがゴールではなく、採用した人材の異質なOSを壊さずにどう活かす環境を作るかが、本当のゴールなのです。
採用とは、市場からどれほど優れた才能溢れるパーツを手に入れるかという買い物勝負ではない。私たちのこのポンコツで癖の強い機械に、どうすれば別の歯車を摩擦なく噛み合わせることができるかという、非常に泥臭く忍耐のいるマッチング作業です。
なぜうちの会社は人がすぐに辞めてしまうのかと嘆く前に。面接の段階から相手の優秀さという眩しい光だけを見るのをやめ、その裏側に確実に存在する絶対に許容できないもの(死角)を冷徹に見据える目を養うこと。それこそが、採用担当者が組織を守るために身につけるべき最強の防衛術だと私は確信しています。
※本記事は性格理論を用いた組織採用のフレームワークであり、絶対的な正解を保証するものではありません。
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この記事を書いた人
塚田 崇博
Aqsh株式会社 代表取締役
人材業界23年、累計1万人超の面談経験を持つ。ソシオニクス・エニアグラム・ソーシャルスタイル等の性格類型学に精通し、採用・育成・定着を一気通貫で支援。
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